【ポパーとか】臨床心理学は科学なのか?【科学哲学とか】

公開日: : その他

資格問題関連のエントリとしてアップした8/16のひょっとして何だか大変なことになってる? のコメント欄が盛り上がってます。発端はなんでもないさんのこの言葉でした。

ロテ職人さん、その他の心理職の方々に質問なんですが、「臨床心理学」って科学なんでしょうか?なんでもないはネットでいろいろな臨床心理士の方々の意見を伺うまでは「科学」だと思っていました。
なんでもないは、<心は科学で扱える部分と扱えない部分があって、それまでの心理学は科学で扱える部分のみに焦点を当ててきました。それに対して臨床心理学は対象と観察者を切り離す科学のスタイルでは通用しない心の部分も含めて、心全体を扱おうとする新たな科学の実践である>と捉えていました。
しかし、そもそも他の心理職の方々は臨床心理学を科学だと思っているんでしょうか?
ロテ職人さんは以前、デスマさんとのやりとりの中でポロリと「臨床心理学は科学だと思う」とおっしゃっていました。一つロテ職人さんには個人的にでもいいので、「臨床心理学は科学」と今でもお思いなら、その理由を教えて頂きたいです。

なんだか私がばたばたして返信できないままにどんどん議論が進んでしまっていますが、一応、私なりの考えを述べてみようかなと思います。


…というか、実はほとんど同じ話題に今年の1/13のエントリ、【再現性】臨床心理士が研究するということ(3)【論理性】で触れているのですよね。そちらを未読の方はまずはリンク先をご覧くださいませ。
で、上記過去ログにもありますが、これってカール・ポパーによる精神分析批判とほとんど同じだと思うのですよ。
ちょっとWikipediaの関連する項目を参照していきましょうか。
カール・ラインムント・ポパー(Sir Karl Raimund Popper, 1902 – 1994)は、イギリスの科学哲学者です。科学哲学とは…

科学哲学(かがくてつがく)は哲学の一分野である。
科学哲学は、科学、特に自然科学を研究の対象とする。 重要なトピックはとしては、以下のものがある。
科学的アプローチの動機;
情報の有効性を決定する手段;
科学的方法の公式化と使用法;
結論に達するための推論のタイプ;
より大きな社会、科学それ自身のための科学方法とモデルの創出とその影響の考察。
科学哲学は科学の巨大化と科学的世界観・手法の曖昧さから、哲学の大きな一分野となっている。

ということで、ポパーは反証可能性という概念を提唱しています。

反証可能性(はんしょうかのうせい)とは、ある仮説が間違いかどうかを実験・観察の結果によって証明できる方法があることである。
科学理論とは反証可能性を備えつつ未だ反証されていない理論のみ生き残る「暫定的仮説」の性格を持ち、厳しいテストに耐え抜いた仮説ほど、より信頼性が高いとした。より詳細な予測を行うために潜在的な反証例をより多く持つ仮説を、より反証可能性が高い仮説だとした。ゆえに、実際に反証される事とは異なる。この考え方を方法論的反証主義と呼ぶ。科学哲学者カール・ポパーが科学と科学でないものとを区別する境界設定の基準として提唱し、ジークムント・フロイトの精神分析やマルクス主義は反証可能ではないため、科学的ではないとした。

さらに、精神分析学精神分析への批判;精神分析の反証可能性の欠如の項目にはこうあります。

精神分析はカール・ポパーのいう反証可能性を持たない。患者が分析医の解釈について同意すれば当然分析医が正しいことになる。また解釈に反対すれば患者が自分の感情を抑圧していると見なされ、分析医が正しいことになる。つまり患者が分析医の解釈に同意しても、反対しても常に分析医が正しいことになる。そのことをもって「精神分析は疑似科学である」と批判する意見もある。 精神分析理論が将来的に科学の一分野として生き延びるためは、人文科学よりも自然科学に近い立場で解明されることが要求されている。 エス、自我、超自我、意識、前意識などの概念は脳科学や認知心理学などの視点から見ても妥当な概念だと考えられる。それに対して、抑圧という概念は問題が多い。 同時に「無意識」という概念も上記で説明される同じ論理形式をたどり、反証可能性を阻害する。

さて、前置きが長くなりましたが、臨床実践に関して言えば精神分析的な心理療法に限らず、反証可能性は持ち得ないでしょう。そういった意味ではポパーの述べたような意味で「科学的ではない」と思います。なぜなら、心理療法場面に関わる要因は膨大で、その全てを統制することは不可能であり、どんな技法であっても反証は不可能だと思います。
ただ、当該エントリのコメント欄でtakashiさんが

そして、臨床心理学は科学ではないからこそ、科学的な志向をもって臨むことが求められると言えます。

と述べているように、こうした考え方は重要だと思います。
で、ここで問題になるのが「再現性」だったり「論理性」だったりということです。再現性・論理性というのも科学にとって重要な概念です。再現性がない心理療法なんて心理療法とは言えません。この辺については私が以前書いた文書をコピペします。

じゃあ臨床実践の中で科学的思考は不必要なのかといったら、これはやっぱり違うと思うのです。少なくとも「再現性」は高めていかないと、それは治療じゃないと思うのです。臨床実践の中で「再現性」を高めるというのは、つまり「改善率」だったり「治癒率」を高めるということにつながります。これは、ある技法を用いた時に「改善する」という結果の再現性を高くするということです。
こうした観点がないとどうなるのかというと…「なんだかよくわかんないけど、こんな話をしてたら良くなった…みたいです」的なケースが増えるわけです。「なんだかわかんないけど良くなった」では、そのクライエントには通用しても、他のクライエントには通用しない可能性はありますよね。それは心理臨床ではありません。当たるも八卦当たらぬも八卦の占いだったり呪術だったりと同じです。
で、「再現性」を高めるにはどうすればいいかというと、「論理的」に考えることが必要だと思います。臨床場面での治療者の応答は、常に「見立て(=治療的仮説)」に裏打ちされた治療的意図に基づくものである必要があります。上で述べたような「なんだかわかんないけど…」ではなく、「○○だからこうした」ということを常に論理的に破綻することなく考えることが必要であるわけです。で、これを常におこなっているのに「再現性」が低いとしたら、それは見立てが間違っているということになるでしょう。

というわけで結論は
臨床実践は科学的ではないが、科学的な視点、再現性や論理性を重視する考え方は必須である
ということになるでしょうか…ってあのコメント欄で何人かの方が述べていることとほとんど一緒かもしれません。
とりあえずこんな感じでいかがでしょ?>なんでもないさん
もし疑問・反論等ありましたら、なんでもないさんもそれ以外の方もご遠慮なくコメントください。
ところでこれらの本↓は一度読んでみなければと思っています。

4769909330 哲学と現実世界―カール・ポパー入門
ブライアン マギー Bryan Magee 立花 希一

恒星社厚生閣 2001-03
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科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる
4140910224 戸田山 和久

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今回のような問題を考える上で科学哲学というのは必須の学問かと思います。「科学とはなんぞや?」といった問題に興味のおありの方々にお薦めでございます(特に『科学哲学の冒険』の方はかなり面白そう)。

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2005/08/19 | その他

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コメント/トラックバック (15件)

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  1. カールポパー・”煤━━━━(?・??延a━━━━!!!!!!
    実は科学哲学,自分も学部生時代にハマりましたよ~.
    ポパーの反証可能性も好きですが,
    トマス=クーンのパラダイム論も好きです.
    科学哲学はとても奥が深いです.
    ポパーの定義では科学でないものが,
    クーンの定義では科学になります.
    今の心理臨床学(あえてこう書きます)は,
    前者では非科学,後者では科学になります.
    心理臨床学コミュニティでは,立派に共通言語として機能していますから,科学になっちゃうんですよね.

  2. あと個人的には,心理臨床も科学的になりうるし,逆に科学的でない心理臨床もあると思います.
    要は
    ①介入の際に仮説を立てていて,
    ②それが客観的な事実・根拠に基づいていて,
    (これは必ずしも「数量的」である必要はありません.大多数の人が根拠として認めうる妥当性を担保していればOKです.)
    ③介入の結果仮説が正しいか間違っているかが判断できれば,
    科学的な心理臨床だと思います.
    問題なのは,「○○先生が言ったから正しい」とか,
    「私は今まで1000人面接してきたのよ!!だから正しいの」とか(苦笑)
    悪しきドグマティズムに陥っていないこと,
    ここが科学性の重要なポイントだと思います.

  3. でもまあ,これもポパーの反証可能性に依拠した科学の定義ですので,
    トマス=クーン流に言えば,必ずしも上記の条件を満たしていなくても,
    科学に入るケースもあります.
    クーンに言わせれば,錬金術も立派な科学だったらしいですから.
    この話,暇を見つけてこちらでもエントリしてみたいと思います.

  4. あ,あと講談社から出ている
    「現代思想の冒険者たち」シリーズの
    ポパーとクーンはわりかしよさげだと思います.
    特にクーンは,「科学弾劾裁判」調に書いてあって,なかなか読みやすいです.
    http://www.g-tools.net/6/9398/9908
    よかったらここからどうぞ.

  5. >SDさん
    勉強になるコメント、ありがとうございます。
    > 要は
    > ①介入の際に仮説を立てていて,
    > ②それが客観的な事実・根拠に基づいていて,
    > (これは必ずしも「数量的」である必要はありません.大多数の人が
    > 根拠として認めうる妥当性を担保していればOKです.)
    > ③介入の結果仮説が正しいか間違っているかが判断できれば,
    > 科学的な心理臨床だと思います.
    そーです!私が言いたかったのはこういうことですよ!(ホントに表現が下手だよな>自分)。
    クーンは名前は聞いたことはあるんですが、詳しくは知らないので、ご紹介された本をちょっと読んでみたいと思います。

  6. あ、
    > 問題なのは,「○○先生が言ったから正しい」とか,
    > 「私は今まで1000人面接してきたのよ!!だから正しいの」
    > とか(苦笑)悪しきドグマティズムに陥っていないこと,
    > ここが科学性の重要なポイントだと思います.
    いますよねぇ。自分がいくつケースを持っているかを誇っている人(笑)。糞みたいなケースをいくつやっても糞は糞なわけで…
    もうそういう相手になると「論理性」とか「科学性」なんて話をするのもアホらしくなってしまいますな。

  7. 面白いネタやってますね~!
    力動精神医学のドグマが科学的か否かの議論とは別に?
    その治療効果を統計学的に検証することは可能ですよね!
    以前PUBMEDで検索したところ?全般性不安障害や
    強迫性障害の治療効果は?CBTでも力動でも同じ位だった様に
    記憶しています!

  8. ポパーの科学哲学には幾つか反論が出てますが?
    以下の本で小河原氏がポパーを擁護してますね!
    結構ハマリました!
    ポパー―批判的合理主義 現代思想の冒険者たち
    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/406265914X/qid=1124584539/sr=1-23/ref=sr_1_2_23/249-4868977-7366749
    批判と挑戦―ポパー哲学の継承と発展にむけて
    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4624011538/qid=1124584455/sr=1-17/ref=sr_1_2_17/249-4868977-7366749
    あまり関係ないけど?ソーカル&ブリクモンの本も?
    ポストモダン系のいい加減さを白日の下に晒していて
    結構痛快でした!
    「知」の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用
    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000056786/qid%3D1124584751/249-4868977-7366749

  9. 8/20(土) 臨床心理/心理臨床は科学か?

    ロテ職人さんのエントリ
    「【ポパーとか】臨床心理学は科学なのか?【科学哲学とか】」
    「ひょっとして何だか大変なことになってる?」コメント欄
    でも盛り上がってるネタについて,ちょっと考えてみました.
    よく「人のこころは科学では扱えない」とよく言われますが
    >なんでもないさん
    なんとなくみんな(私も含めて)が述べていたことが、なんでもないさんの中でまとまりつつある感じがします。
    > 臨床心理学を学ぶ者は全て、自らの心理療法を行う上で
    > 各々の科学的視点を設定しその設定の及ぶ範囲(科学の限界)を
    > 自覚することが大切
    それはそうだと思います。
    ただ、アフォはそもそも「科学的」であることは考慮しないような気もします…というかそういうアフォもいるであろうってことで。
    > ロテ職人さんはそれを制度の問題として捉えているんですね。
    いやいや。制度の問題「も」もちろんありますが、他にも色んな要因が関わっていると思います。そもそも「なりたい!」と思っていた人間が心理学について誤解したまま、脱落することなく修士課程を修了したり…なんてことが平気であったりするのは、制度も含めた構造的な問題なのではないかと思います。

  10. >番長さん
    コメント&関連書籍のご紹介ありがとうございます。
    > 以前PUBMEDで検索したところ?全般性不安障害や
    > 強迫性障害の治療効果は?CBTでも力動でも同じ位だった様に
    > 記憶しています!
    まあ、色々な研究がありますからね…ただ、meta-analysisを用いた研究ではその手の神経症的障害はCBTの方が治療効果が高かったような気がしないでもない…
    ご紹介いただいた書籍はそのうち読んでみたいと思います。さすがに自分の専門領域の本がメインになっていますが、たまには別の領域の本も読んでみたい今日この頃。

  11. ロテ職人さんへ
    なんだか自分の悶々とした考えを述べてしまったが故に、こうして新たなエントリーまで立つことになってしまって…、なんと言っていいやら、いやはや。ロテ職人さんもおっしゃられているように(自分も自覚しつつ悶々と述べたつもりですが)、自分の科学的視座のよりどころを模索中なんです。なので「科学かどうか」の意見に対して

  12. >お時間ある時で結構ですので、その辺り、一度まとめていただけますか?
    なんでもないは知ることから始めないといけないので、科学的視点をまとめるのはまだまだ出来そうにありません。ただ今回のみなさんの意見をうかがってのまとめみたいなものとしては「臨床心理学を学ぶ者は全て、自らの心理療法を行う上で各々の科学的視点を設定しその設定の及ぶ範囲(科学の限界)を自覚することが大切」なんだと思いました。臨床心理学を学ぶ者にアフォが多いのは、自らの科学的視点を設定せず曖昧なままにしておきながら、科学(原因と結果)を当てはめて問題を見ているからなのかなと予想してみたり。一言で言ってしまえば「自分の考えに疑いを抱かない」ということなんですが…。

  13. 今回なんでもないが質問した理由の一つに、「臨床心理学のまとまりのなさ」があります。単なるアフォですら排除できない学問って、臨床心理学以外にもあるんでしょうか。例えば哲学では自分の人生観を述べたからといって、相手にはされません。そういう内部の学問の壁みたいなものが臨床心理学にはないのでしょうか?あればいいのにと本気で思ってしまいます(ロテ職人さんはそれを制度の問題として捉えているんですね。それもかなりそうですね。この辺りは見ている視点の違いなだけかもしれません)。あと自分自身に対しての渇なのですが「学問であるならば、独りよがりになってはいけない」と思いました。ロテ職人さんが以前おっしゃっていたように、常に自分の実践を言語化しなければならないということですね。その為の学問としての方向性を見つけなければいけないんですね。

  14. 長々とオナ(…っ恥ずかしくてそんな言葉は言えません)、マスターベーション的な発言をしてしまいました。でも、個人的には考えというか学ぶ方向性がおさまるところにおさまった感じがします。意見をくださったみなさんには、とても感謝しています。お騒がせしました&ありがとうございました。

  15. >なんでもないさん
    なんとなくみんな(私も含めて)が述べていたことが、なんでもないさんの中でまとまりつつある感じがします。
    > 臨床心理学を学ぶ者は全て、自らの心理療法を行う上で
    > 各々の科学的視点を設定しその設定の及ぶ範囲(科学の限界)を
    > 自覚することが大切
    それはそうだと思います。
    ただ、アフォはそもそも「科学的」であることは考慮しないような気もします…というかそういうアフォもいるであろうってことで。
    > ロテ職人さんはそれを制度の問題として捉えているんですね。
    いやいや。制度の問題「も」もちろんありますが、他にも色んな要因が関わっていると思います。そもそも「なりたい!」と思っていた人間が心理学について誤解したまま、脱落することなく修士課程を修了したり…なんてことが平気であったりするのは、制度も含めた構造的な問題なのではないかと思います。


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  • 某総合病院精神科勤務の臨床心理士であり臨床心理学者(自称)。なんだかんだで2児の父。妻との仲もそれなりに良好
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