臨床心理士が研究するということ(2)──臨床実践における科学的思考

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13/06/07のエントリ、臨床心理士が研究するということ(1)──研究と臨床実践はどう繋がるのか?の続きです。

前回は研究と臨床実践との繋がりを考えた時、「なんとなく」の研究も「なんとなく」の臨床実践も避けねばらないということについて述べました。そして、研究において科学的思考が重視されるのと同様に、臨床実践においても科学的思考が必要であるという話もしました。

今回は「臨床実践における科学的思考」についてもう少し詳しく考えてみたいと思います。

「科学的思考」とは?

前回、繰り返し「科学的思考」という言葉を使ってきましたが、そもそも「科学的思考」とは何なのでしょうか?

前回私が述べた先輩の言葉から引用して、便宜的にここでの「科学的思考」を定義したいと思います。

「科学的思考」とは…

仮説を立てて、その仮説を検証するための方法を考えて、その方法に基づいて実験・調査をおこなって、その結果を考察して、その考察から仮説が間違っていたらさらに仮説を修正して、仮説を検証するのにより良い方法があったら方法を修正して、実験・調査をして、考察して…

というプロセスとそこで用いられる考え方である…と定義します。

ポパーによる精神分析批判と「反証可能性」

心理臨床実践と科学との関連について考える際、ポパーによる精神分析批判の問題は避けて通れないでしょう。

1970年代の初頭、イギリスの科学哲学者カール・ポパーは科学と非科学とを区別する境界設定の基準として、「反証可能性」という概念を提唱しました。

反証可能性とは「ある仮説が間違いかどうかを実験・観察の結果によって証明できる方法があること」と定義されます。

反証可能性に照らし合わせてみれば、確かに精神分析の理論は科学的であるとは言えないかもしれません。

反証可能な臨床実践は存在するのか

しかし、改めて考えてみると、そもそも反証可能な臨床実践というのは存在しうるのでしょうか?

例えばあるクライエントの心理療法を行っている臨床心理士がいたとして、前回のセッションの彼らと今回のセッションの彼らは全く同一なのでしょうか?そうではないでしょう。

セッションが1週間に1回の頻度で行われていたとして、その間は様々な出来事が起こり、そしてクライエントも臨床心理士もそうした日々の出来事の影響を受け、絶えず変化している部分は多いと思われます。また、同一セッション内ですら、クライエントも臨床心理士も例えば感情であったり関係性であったりは常に変化し続けるでしょうし、そうした意味ではやはり変化し続けていると言えます。

そう考えると、全く同じ状況を作って実験・観察することなどは不可能であると言えるでしょう。

臨床実践において「再現性」を高めるということ

では、臨床実践の中で科学的思考は不必要なのでしょうか?私はそんなことはないと思います。少なくとも「再現性」は高めていかないと、それは心理「療法」つまり「治療」とは言えないと思うのです。

臨床実践の中で「再現性」を高めるというのは、つまり「改善率」であったり「治癒率」であったりというような、変化の可能性を高めるということにつながります。これは、ある技法を用いた時に何らかの変化が生じるという結果の再現性を高くするということです。

こうした観点がないと「なんだかよくわかんないけど、こんな話をしてたら良くなった…みたいです」ということが起こってしまいます。「なんだかわかんないけど良くなった」では、あるクライエントには通用しても、別のクライエントには通用しない可能性は高いです。それは心理臨床ではありません。当たるも八卦当たらぬも八卦の占いだったり呪術だったりと同じです。

「再現性」の向上と「科学的思考」

臨床実践において「再現性」を高めるにはどうすればいいのでしょうか?

私はそこで「科学的思考」が必要になると思います。

臨床場面での治療者の応答は、常に「見立て(=治療的仮説)」に裏打ちされた治療的意図に基づくものである必要があります。

それはつまり、上で述べたような「なんだかよくわかんないけど…」ではなく、「○○だからこうした」ということを常に論理的に破綻することなく考えるということです。

治療的仮説を立てて、その仮説に基づいた介入方法を考えて、実際にその方法で介入してみて、その結果どうなったかを考察して、その考察から仮説が間違っていると思われたなら、仮説を修正して、より良い介入方法があったら方法を修正して、介入をして、考察して…

これは冒頭で述べた科学的思考のプロセスと全く同じであると言っていいでしょう。

こうしたプロセスを経ることで初めて「再現性」が向上する、つまり複数のクライエントに何らかの変化をもたらす可能性が高くなるのではないでしょうか。

引き続き「研究と臨床実践はどう繋がるのか?」という問題について、「科学的思考」に基づいて考えていきます。

私自身の臨床実践における「再現性」を少しでも向上させるためにも、それは必要なことなのではないかと思っています。

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  • 某総合病院精神科勤務の臨床心理士であり臨床心理学者(自称)。なんだかんだで2児の父。妻との仲もそれなりに良好
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