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臨床心理士の「収益化」は難しいという話 あと情報の周知とか偏見とか

悩んでる人

「夜回り2.0」Jiro Itoさんからの@ツイート

昨日、「夜回り2.0」という活動をされているOVA(オーヴァ)という団体の代表である、Jiro ITO(ジロウ イトウ)(@110Jiro)さんより、Twitterでこんなメンションをいただきました。

「夜回り2.0」とは…

夜回り2.0(英訳;インターネット・ゲートキーパー)とは6月に、若者の自殺が増えていることに強い問題意識を感じた私が、個人的に開発・実施したインターネットを利用した「攻め」のジサツ防止活動で、世界的にも前例がないものです。

夜回り2.0について | 壁と卵より)

JIROさんはGoogle AdSense(Googleの提供している検索連動型およびコンテンツ連動型広告の広告配信サービス)を利用し、自殺関連語の検索をした人に対して相談を受ける旨の広告を出して(自腹で)、その上で相談をメールを介して受け、現実の援助資源(例えば、精神科受診)につなげるという活動をしています。

インターネットを使った自殺予防:行動履歴データを使ったハイリスク・アプローチ – 自殺サイト:自殺 臨床心理学 (和光大学末木新研究室ブログ)より)

これはなかなか興味深い活動なのではないかと思います。上記末木氏の著書『インターネットは自殺を防げるか: ウェブコミュニティの臨床心理学とその実践』(以前ご恵贈いただきました。改めてありがとうございました)の内容と直接的にリンクする実践的な活動であると言えるでしょう。

Jiro Itoさんの考える未来の「心のインフラ」とは

@メンションにあったJiro Itoさんの考える未来の「心のインフラ」とはどんなものなのか。まずはお読みください。

未来の「ココロのインフラ」の話をしよう。【新しい相談文化の創造。相談者・臨床心理士とのマッチングサービス】壁と卵 | OVA(オーヴァ)代表 JIROのブログ

要点をまとめますと…

・相談者と臨床心理士等をマッチさせるプラットフォームをネット(スマホ)上につくりあげる。メール、チャット、電話など好きな方法で相談可
・「カウンセリング」以外の言葉を使う=相談するという文化を新たに創造する
・有料相談サービスの価格を劇的に下げ「固定化」。30分1500円、50分2500円レベルに。
・サービス提供者は「臨床心理士のみ」=最高級のサービスを最低の価格で届ける
・サービスは安価にし「販売量」を増やすことで、臨床心理士も稼ぐことができる

という感じでしょうか。

…本当に、こんな上手いこといくのでしょうか?

市場原理に則って考えれば実は簡単な「臨床心理士の収益化」

いきなり記事タイトルに真っ向から反対する見出しになってますが、臨床心理士の仕事の収益化「のみ」を目的とするのなら(=儲けようとするなら)、実は結構簡単です。

クライエントを「依存させ」「心の隙間を埋めて」あげればいいのです。気持ち良くさせてあげて、面接を出来る限り終わらせないように、引っ張るだけ引っ張ればいいんです。「そのカウンセラーがいないと生きていけない!」と思わせればいいのです。

意識してか、あるいは無意識にかはともかく、実際にそういうことをやっている臨床心理士であったりカウンセラーだったりはいるかもしれません。それでも、場合によっては顧客満足度もきっと低くはないと思います。お客様が望むサービスを(ひょっとしたら他社より安価に)提供しているわけですから。

でもまともな臨床心理士はそれはしません。その行為は倫理に反するからです。

究極的に我々にとって望ましい世界というのは「臨床心理士が必要ない世界」です。そういった意味では臨床心理士にとっては、自分たちが成果を上げれば上げるほど、需要は少なくなるという見方も出来るのです。

それって、利益を追究するという市場原理とは真逆の世界ですよね。

そんなわけで根本的に臨床心理士の仕事というのは、市場原理に反すると言えるのではないでしょうか。

「心のインフラ」が完成した先にあるのは高学歴ワーキングプア層の拡大

心理臨床サービスを薄利多売するとどうなるか考えてみましょう。スマホ片手の「傾聴」レベルのサービスで、50分2500円のサービスが普及したとしたら…

心理臨床実践の能力を客観的に評価するのはなかなか難しいです。業界内にいる我々ですらそうなのですから、世間の人は尚更でしょう。

50分2500円の心理士と、50分10000円の心理士。その能力の違いが傍目からはわからないとなると10000円の方に行く人はいなくなりますよね。

そして、サービスを提供する側からすると、仮に自分の好きな時間に出来たとしても、1日6セッションを月〜金で毎日やったとしたら、少なくとも私は自分の臨床実践の質を保つ自信はありません。それが出来る人もいるかもしれませんが「スマホ片手に」「副業的に」さらに質を落とさずに出来る人なんてそうそういないと思います。

結果的に何が起こるかというと、臨床心理士全体の質の低下と「食えない」層、つまり高学歴ワーキングプアが今よりも増えるということになります。

じゃあ代案は?

ネガティブなことばかり言っていても何なので、少し現実的な代案を出させていただきます。

「利用者と臨床心理士のミスマッチ」というのはそうだと思います。なかなかアクセスし辛い人達がいるというのはわかります。

そして「つなぐ」ということはとても大事です…というか、スマホ片手の傾聴で解決しない場合、そこで出来ることは「つなぐ」ことだけだと思います。

つまり、最初から継続面接をしないことを前提として、最終的に臨床心理士のいる相談機関や精神科などへのリファーすることを目的とした相談サービスならアリなんじゃないでしょうか。

イメージとしては格安の有料版いのちの電話(「いのちのSkype」でも「いのちのチャット」でもいいですが)といったところでしょうか。

重要なのはまずは情報の周知すること

そもそも、Jiro ITOさんが挙げた現状の問題点

無料の心理相談サービスに数十回かけないと電話がつながらない。
無料の心理相談サービスへの抵抗(心理的コスト)。例えば、30代で不動産営業マンをしている男性が「いのちの電話」や「よりそいホットライン」などに電話をかけることに心理的な抵抗があると思われる。他にあっても、知らない。(知らないは「ない」と同じ)

無料電話相談サービスはそれぞれあるが、広報力がない=知名度が高い電話相談サービスに集中し、パンクする。

これは、インフラの整備と情報の周知でずいぶん解決しますよね。相談を受けるのは、現行の「いのちの電話」レベルの研修を受けたボランティア(無償・有償どちらでも)で、「つなぐ」ことに徹すればいい…という感じで。

どんなに良いサービスであっても、Jiro ITOさんのおっしゃる通り、知らないは「ない」と同じなわけであとは、その情報をとにかく周知することかと。

そういう意味では、新しいサービスを立ち上げずとも、現行の「いのちの電話」でもいいのでは?という気もします。電話が繋がりにくいことさえ解消されれば。その辺りも格安であれ有料になれば、改善される可能性は高いと思います。

もう一つ重要なのは、みんなの中の「偏見」をなくすこと

そして、最大の問題はこの「心理的抵抗」です。

これは抵抗の背景にあるのは何なのかというと、「精神科を受診すること」や「カウンセリングを受けること」に対する「偏見」なのではないかと思います。

Jiro ITOさんの上記の記事に言及しつつ、イケダハヤト氏(ネット上の有名人であることはわかりますが、何をされている方なのかは存じ上げません。すみません…あ、プロブロガーさんなんですね)がこんな記事を書いてらっしゃいます。

苦しいときに助けを求められる人は、強い人です。弱い人は、そもそも「助けて」と言えませんihayato.書店

助けを自力で求められるということは、自分の状況を理解する力があり、情報収集能力があり、コミュニケーション能力も十分で、人的な資源にも恵まれている、ということです。ついでにいえば、自分の弱さを認められるくらいにまでは、強い人です。

弱い人には、そうした能力や素質を育むための環境がありません。だからこそ、自力で頑張ろうとして、より苦しい方向にハマっていってしまうわけです。

「強い」「弱い」をどう定義するのか?という問題はおいといて、相談機関を訪れて相談することを「恥ずかしい」と思って避けてしまう人というのは、つまりそういった所に行く人は「恥ずかしい人」だという偏見があるわけですよね。自分がそうではなかった時に、意識的にか無意識的にかはわかりませんが相談機関に頼る人を「弱い人」だと思っていたから、そういう人間と同等に見られたくないから、「自力で頑張ろう」とするんじゃないでしょうか。

もちろん、抑うつによる自己肯定感の著しい低下もあるんでしょうけれども、そういう状態になったら相談機関を訪れるべきなのだという雰囲気が世の中に醸成されることが重要なのではないかと思うのです。

「言うは易し、行うは難し」だってのはわかってるんですけどね。でも例え時間がかかったとしても、そうした偏見をなくしていくことに取り組むというのは、実は我々の仕事の一つなのではないかとも思ったり。

「つなぐ」ことの大切さ

別に私はJiro ITOさんをdisりたいわけではないのです。

むしろ、Jiro ITOさんがされている試みというのはとても素晴らしいと思います。

そして、Jiro ITOさんは本業(?)はソーシャルワーカーさんだとのことですが、ワーカーさんこそ「つなぐ」ことの専門家なのではないかと思うのです。

それは単に、こちらの施設からあちらの施設へ紹介するということではなく、ソーシャルなネットワークを作っていく(SNS!)ということだと思います。

日々の仕事に追われ、社会に対して何も貢献できていない自分が好き勝手なことを言ってしまい、大変申し訳ないという気持ちもあります。ホントに。

最後に繰り返しになりますが、願わくは、我々、臨床心理士が必要のない社会になって欲しいものだと心から思います。

あんまりまとまってませんが、引き続きJiro ITO(@110Jiro)さん、イケダハヤト(@IHayato)さんを始め多くの方のご意見をうかがいたいところでございます。

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