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臨床心理士訓練制度の問題に気づいていながらなぜ平井正三先生(@cpyuhshi2013)は大学を離れたのか?

※4/30 19:00追記:平井正三先生が指定校の教員であったという事実はありませんので、誤解のなきようお願い申し上げます。

精神分析の学びと深まり

先日、ご恵贈いただきましたこちらの本。

実践とかけ離れた精神分析は、臨床理論としての実質を欠いている。その場合「精神分析はなんぼのものか」と言えば、それは見掛け倒しであり、外出用の衣装の一つに過ぎない。

著者が英国タビストック・クリニックで出会った精神分析は,日常と密接にかかわり、生きることそのものに根ざし、普遍的な魅力を持つ実践であった。

精神分析はフロイト以来大きく姿を変えつつある。既存の実践や理論のあるものは、時代とともになくなる運命にあるのだろう。しかし、それらが消滅しても、情動経験の中に自ら没入し、内省するという精神分析の「実質」は、揺るぎないのである。

気鋭の臨床家が臨床実践から一歩離れた地点で、心の臨床家の専門性を支えるものとしての精神分析の実質を熱く論じる。

少しずつ読み進めておりますが、大変勉強になります。それも「机上の学問」ではなく、筆者である平井先生の臨床における息づかいが聞こえてくるような、そんな一冊です。

この本、第1章・第2章はイントロダクションで、「第2章 心理臨床家の自立について──内省と観察の営みとしての精神分析の学び、そして深まり」では、平井先生がトレーニングを受けられた英国のタビストック・クリニックで行われている精神分析実践の訓練とその「哲学」が、平井先生自身の経験を踏まえて書かれております。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、話は変わりますが、相変わらず「公認心理師」がらみで、Twitter上では熱い議論が展開しております。

その流れの中での平井先生(@cpyuhshi2013)のツイートがどうしても気になったので取り上げてみます。



「臨床心理士の質が低いという問題は訓練制度の問題である」「現実的解決策はその問題点を明らかにし、必要な修正案を作成すること」という点については私も大賛成です。しかし、なぜ「問題点を明らかにすること」「必要な修正案を作成すること」が今までになされてこなかったのでしょうか?

臨床心理士の免許番号第1号が誕生したのが1988年。それから既に26年。

臨床心理士養成大学院指定制度の導入が始まったのが1996年度ということで、それからでも18年が経過しています。

それだけの時間があったにも関わらず訓練制度の改善は進まず、むしろ粗製濫造が進んでしまった結果が現在の臨床心理士を取り巻く状況なのです。

さてそれに関連して、平井先生の『精神分析の学びと深まり』の第2章にこんなフレーズがあったので引用します。

かつて大学で教えていたこともあったが、こちらの方は実質の勤務した時間ははるかに少なく効率よく給与の貰える仕事であったが、臨床の仕事をしている現在よりもはるかにストレスが高く感じていた。

ほとんどの仕事上のストレスは、人と人とのぶつかり合いからくるように思われる。大学の仕事の場合、会議を中心にこうした人と人との摩擦がえてして起こるわけであるが、こうした摩擦はたいていの場合どこにも行きつかない。摩擦を通じて何かを学ぼうなどと思っている人もあまりいない。摩擦は摩擦のままなのである。しかし心理療法の中で起こる摩擦はそこから意味が生じうる摩擦であり、大学教員と異なって、ありがたいことにほとんどのクライエントは何かを学びに心理療法にやって来る。私たちが、クライエントとの経験から何かを学ぼうとする限りにおいて、そこには互恵的関係が生じる可能性が高くなり、摩擦によるストレスは産みの苦しみになりうるのである。

私は大学で教員として勤務した経験はありませんが、おっしゃっていることはなんとなくわかります…

…が、一つ気になるのです。

上で引用した部分、平井先生が教えてらっしゃった学生のことは完全に忘れ去られていませんか?平井先生が教えた学生は「何かを学びに」大学・大学院に来ていたわけではなかったのでしょうか?そんなかつての教え子の皆さんは、上の平井先生の言葉を読んでどう思われるのでしょうか?

確かに平井先生ほどの臨床家が、臨床実践よりも後進の育成に注力するというのはある意味で大きな損失だと思います。

しかし、上のツイートにあるように、実際に現場にいてそして臨床心理士の訓練制度の問題に気づいていながら、なぜそれを改革しようとしなかったのでしょうか?

もちろん学外からでも、市井の臨床家の立場で訓練制度の改革をしていくことは不可能ではないでしょう。しかしいくら教員同士の摩擦が不毛であるとは言え、なぜ平井先生が「現行の訓練制度に問題があったとしても、自分の教え子だけは質の高い臨床心理士として世に送り出したい」と教員を続けていくことをしなかったのか…不思議でなりません。

正直、開業したいというご自身の都合で大学を離れておきながら、今になって訓練制度の問題にどうこう言うのは私としては矛盾以外の何物でもないと思います。まさか、大学内にいながら「当時は問題に気づかなかった」ということではないですよね?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…あ、繰り返しになりますが『精神分析の学びと深まり』は大変良い本だと思います。精神分析に興味がある方は必読の一冊だと思います。

興味のある方は是非ともポチっとどーぞ、です。

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コメント/トラックバック (7件)

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  1. 私は、ご本人には何の私怨もありませんが、摩擦の下りを読んで「そりゃ社会人なんだから当たり前でしょ」とビックリしてしまいました。
    なんだか、心理臨床の世界では、当たり前のことを、さも特別なような事のようにいう事が度々あるような気がして、大したスキルも実績もない若造ではありますが、専門性以前に、その辺りにとても危なっかしさを感じます。

  2. おひさしぶりです。あららです。

    ロテ職人さんが怒っているポイントが、平井先生にはわからないんだなあと思いながら、ツイッターのやりとりを読ませていただきました。
    平井先生がケンカして大学を飛び出したという話を聞いたことがあります。さぞや不毛な世界だったんだと思いますが、私もこっしーさんが言われるように、「当たり前でしょ」と言いたくなります。
    精神分析の理想を追い求めるのはけっこうですが、臨床心理士=精神分析家じゃありません。良い仕事がしたいと思っていても、目の前の現実に負けそうになります。やっと資格が見えてきたのに、上から目線でそもそも訓練制度が、と言われても今頃何をと言いたくなります。
    ツイッターで色々な方が議論されていて、参考になるご意見もあるように思いますが、憶測でものを言っていても結局結論が出るわけでもなく、その情報が正しいかどうかもあやふやです。
    それよりもっと建設的なことはできないものかと思います。

  3. >こっしーさん

    コメントありがとうございます。

    > 摩擦の下りを読んで
    > 「そりゃ社会人なんだから当たり前でしょ」と
    > ビックリしてしまいました。

    その辺に関して言えば、前後の文脈を無視して引用しておりますので、これだけで判断していだくのは個人的にはもったいないかなあとは思います。

    > 心理臨床の世界では、当たり前のことを、
    > さも特別なような事のようにいう事が
    > 度々あるような気がして

    この点はノーコメントということで…お察しくださいませ。

  4. >あららさん

    コメントありがとうございます。

    > 臨床心理士=精神分析家じゃありません。

    > やっと資格が見えてきたのに、
    > 上から目線でそもそも訓練制度が、
    > と言われても今頃何をと言いたくなります。

    そうなんですよねえ…自分の臨床実践のオリエンテーションが分析であるだけに、この伝わらなさが歯がゆくて仕方がないです。

    とりあえず、あららさんには私の言いたかったことがお分かりいただけてうれしく思います。

    > 憶測でものを言っていても
    > 結局結論が出るわけでもなく、
    > その情報が正しいかどうかもあやふやです。

    だから、基本的には公式情報が出るまでは静観してないと、不確定な情報に翻弄されちゃいますよね。

  5. ロテ職人さん

    私の本を紹介してくれるのはいいのですが、誤解に基づく、もしくは誤解を招く紹介の仕方はやめてください。
    ①まず、私がまるで指定校の教員であったかのような記述は誤りです。臨床心理士の訓練課程に常勤として関わったことはありません。
    ②twitterの引用は完全に文脈を無視しています。臨床心理士の質の低下を根拠に、心理師法案に医師の指示条項を入れることで、低い質のサービスを排除するという議論への反論です。繰り返しますが、私は、私たち専門家による、こうした議論は専門的学問的なものである必要があると主張しています。政治的側面はそれを踏まえ政治家がやることでしょう。

  6. あららさん

    私はケンカして大学を辞めたなんていうのは流言蜚語の最たるものですよ。自分でいうのも何ですが、私は働いてきた組織には大抵はよく適応してきたと思っています。勤めていた大学に聞いてみてください。
    まあ、こんなふうに人のこともよく知らずに誹謗中傷したり、流言蜚語を流したりする面があるのがこのネット世界の潮流だから仕方ないと思っていますが。ただ有志の会で流している情報は、未確認などの限定や訂正の試みをするなど正解であろうとしています。もっともここに投稿されているあなたやもう一方と共存は出来ても実りある対話は難しいでしょうね。

  7. >平井正三先生

    コメントありがとうございます。

    > まず、私がまるで指定校の教員であったかのような記述は誤りです。
    > 臨床心理士の訓練課程に常勤として関わったことはありません。

    この点については、冒頭に追記を入れさせていただきました。

    ただ、私は平井先生が指定校の教員であったとの記述はしておりません。学部でしか関わっていなかったとしても、学部教育からの臨床心理士養成教育の改革は可能だったのではないかと思います。それとも臨床心理士養成に学部教育は不要なのでしょうか?

    > twitterの引用は完全に文脈を無視しています。
    > 臨床心理士の質の低下を根拠に、心理師法案に
    > 医師の指示条項を入れることで、低い質のサービスを
    > 排除するという議論への反論です。

    だからといって、それが臨床心理士の訓練制度の改革に直結はしないですよね。そして、それを主張するのであれば、何故ご自身が出来る時に出来ることをされなかったのか?と私は疑問に思ったので、引用させていただきました。

    > 繰り返しますが、私は、私たち専門家による、
    > こうした議論は専門的学問的なものである
    > 必要があると主張しています。
    > 政治的側面はそれを踏まえ政治家がやることでしょう。

    私の意見はそうした態度が現在の窮境を招いてしまったのではないかということです。

    そうした専門的・学問的議論がしたいのであればすればいいと思いますが、既にそういう段階ではない、端的に言えば「遅すぎる」と私は思います。

    そして、私がそう思うからといって、平井先生はお好きに議論されればいいのではないでしょうか。


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