筑波大の学生らが福島の子ども達にドングリを贈る…ってそんなに良い話なのか?

公園に転がっていたどんぐりと落ち葉

昨年末、いくつかの媒体(主に新聞のネット記事)でこんな話題が取り上げられておりました。

東日本大震災:福島第1原発事故 「福島の子にドングリを」 筑波大生ら贈り続け、自然との触れ合い提供毎日新聞

記事全文がいつリンク切れになるかわからないので、とりあえずコピペ。

福島第1原発事故 「福島の子にドングリを」 筑波大生ら贈り続け、自然との触れ合い提供 /茨城

 筑波大(つくば市)の学生らが、東京電力福島第1原発事故後、福島県の子どもたちへ学内で拾ったドングリを贈り続けている。放射線による影響を案じて、屋外の活動を制約している保育園もあり「自然に触れられる機会を」との思いからだ。

 企画したのは筑波大の臨床心理士、鈴木吏良(りら)さん(43)。沿岸部の被災者らの心のケアを通じて親しくなった福島県南相馬市の保育士、佐藤里美さん(48)に「お土産は何が良いか」と尋ねた際に「ドングリ」と言われたのがきっかけだ。

 佐藤さんは「子どもたちに直接自然と親しむ体験をさせてあげたかったので県外のドングリが欲しかった」と振り返る。

 2013年秋、鈴木さんは講師を務めていた災害精神支援学講座を受講する学生に、ドングリを集めるよう呼び掛け。集まった大量の実は凍らせて殺虫処理した後、カビの発生を防ぐために水滴を取って乾かした上で、佐藤さんの求めに応じ、沿岸部の支援団体に随時、届けてきた。

 今年は、佐藤さんが4月から勤め始めた南相馬市立原町あずま保育園の園児たちがクリスマスリースやサンタの人形などを作るのに使った。

 同園の今野満子園長は放射線に悩む母親と向き合いながらも、外遊びができるように子どもが触る遊具を拭いたり、放射線量を確かめてから散歩の経路を選んだり配慮してきたという。それだけにドングリを通じた支援は「支えになる」と喜ぶ。

 鈴木さんは「遠くからでもドングリを通じて、一緒に向き合っていきたいという思いを伝えられる。これからも続けたい」と話している。

他の新聞でも同様の記事が出ております。

「ドングリで自然感じて」 筑波大の学生ら、福島の子どもたちに贈る東京新聞
福島の子供にドングリ寄付 筑波大生ら「自然に触れて」日本経済新聞

これ、いかにも美談っぽい感じになってるんですが、ワタクシみたいにねじくれ曲がった心の人間からすると「ホントに良い話なのか?」と思ってしまうわけでして。

そもそも何で私がこの記事にたどり着いたのかと言いますと、ブログのネタ集めとして臨床心理士関連のニュースは日々収集しているのですが、その流れからでございました。

企画したのは筑波大の臨床心理士、鈴木吏良(りら)さん(43)

ということで「これって臨床心理士の仕事なのか?」と思ったんですが、まあそれは別にいいんです。福島の子どもたちのために何もしていない私からすれば、何か行動を起こしているというだけでも百倍はマシ…なのかな?

それ以前に気になるのは、“放射線による影響を案じて屋外の活動を制約している保育園もあり”とのことなんですけど「福島のドングリってそんなに危険なのですか?」ということでして。

私はもちろん放射線関連の専門家ではありませんし、現時点ではちょこっとネットで調べた程度の知識しかないわけなんですけれども、例えば南相馬市のドングリの放射線量に関してはこんな資料がありました。

2014年度南相馬市各地の植物放射能濃度調査報告南相馬除染研究所

5.農作物ではありませんが、農作物と同じ敷地にあるドングリを測定したところ、農作物と比較して高い検出値 370.7Bq/kg を検出しました。このことからドングリは生育過程において Cs を吸収しやすい樹木であると思われ、他の調査Data と Fig-3 比較検証してみました。

明らかにドングリと栗では種類が異なるために一概に比較することは出来ないかもしれませんが、かたい殻にくるまれた植物としては明らかに Cs の蓄積量に差があり、この傾向は飯館村長泥のドングリと栗の関係についても同様の共通点が認められました。

樹木の生育における Cs の吸収メカニズムが樹木により違いがあることによるものであることは明白ですが、生育の過程で養分や Cs が樹木のどの部分をどのように吸収するのか、また、蓄積差は何故発生するのか?など等、知りたい知識が不足しており興味が高まります。

確かにドングリは同地域の他の農作物と比較して高い放射能濃度を示すようです。

ただ、これって「食品としてのリスク」という問題であり、例えば何かを作成するための材料として数時間程度触れることについて、どの程度のリスクが想定されるのかが非常に気になるのです。その辺りに関する明確なデータってあるんでしょうかね?

そして、仮にこの「ドングリを贈る」という試みが「南相馬市のドングリは触れているだけでリスクがある」というエビデンスに基づいているとして、じゃあ学生が集めてきたドングリの放射能濃度ってどの程度なんでしょうね?もちろんそこは測定した上で安全だと判断されているのだと思うのですが、その辺りに関するデータは少なくともネット上では見つからないんですよね。

ちょこっと論文検索とかもしましたけど、やっぱり見つかりません。これは私の検索スキルの乏しさもあるかもしれませんけれども。

そういや、同じく南相馬市の公式サイトを探していたら、こんな記事を発見したんですけど…

2014年10月16日 ちびっこたちの秋の一日南相馬市

…“どんぐり見ぃつけた”とキャプションのついた写真、しっかりドングリを持っているお子様が写っているわけですが、これは大丈夫なんですか?

とりあえず現時点でワタクシの言いたいことをまとめると、ドングリを贈る前にまずは現地のドングリのリスクがどの程度であるのかをデータに基づいて判断し、リスクが高いとなれば筑波大生が集めたドングリのリスクも測定した上で贈るという手続きを踏むべきなのではないかということでございます。

そうしたことを既にやっているならば即ジャンピング土下座する用意はこちらにもありますです。

さらに、もしも現地のドングリのリスクが少ないのだとしたら、その事実を南相馬市の子どもに関わる人たちに伝えていくことをせねばならないのではないかと思います。不安に思っている方も多いからこその“「子どもたちに直接自然と親しむ体験をさせてあげたかったので県外のドングリが欲しかった」”という言葉なのでしょうから、臨床心理士の仕事と考えると、まずはその不安を軽減することなのではないかと思うのですよ。

…ってなことをドングリを集めた学生たちや“筑波大の臨床心理士、鈴木吏良(りら)さん(43)”は考えなかったのでしょうかね?

そしてここからちょっと脱線していきます。

“筑波大の臨床心理士、鈴木吏良(りら)さん(43)”の「吏良」さんというお名前。結構珍しいお名前であり、どっかで聞いたこと(見たこと)あるなあと思って調べたんですけど、たぶんこの人ですよね。

苗字違うじゃんと思われるかと思いますが、こんなのも。

東京大学大学院医学系研究科 精神保健学・精神看護学分野 News letter 2013.5.21

「新入生からのご挨拶」の「☆学部研究生」より引用。

はじめまして。山下吏良と申します。4月から研究生として受け入れて頂きました。これまでの経歴は、民放報道記者→ NHK キャスター→臨床心理士→海上自衛官→今年度から筑波大学医学医療系災害精神支援学講座助教及び、都内のカウンセリングルームで臨床心理士として勤務しております。

そしてこちら。

スタッフ紹介 | 筑波大学医学医療系臨床医学域 災害精神支援学講座

筑波大学の方では「鈴木」さん名義なのですね。

ここで気づいたんですが、自殺関連の研究で有名な高橋 祥友氏って、今は筑波大にいらっしゃるんですね。へー。

臨床心理士の鈴木氏はもちろん、放射線関連の専門家ではないでしょうけれども、筑波大の学内だったらいくらでも測定可能な施設はあるでしょうに…と思った次第。

とにかく強引にまとめますと「福島の子どもにドングリを贈るという話題が手放しで美談扱いにされるのは気持ちわりーな」ということでございました。

…なーんて書くと「何もしてない人間が努力してる人のことを批判するなんて!」って叩かれるんだろうなー。決して炎上狙いなどではなく至極真面目に書いてるつもりなんですけどね。

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  • 某総合病院精神科勤務の臨床心理士であり臨床心理学者(自称)。なんだかんだで2児の父。妻との仲もそれなりに良好
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