臨床心理学

心理学系学部・学科を志望する高校生の皆さんへ その3 - 入学してから「話が違う!」とならないためのたった一つの心構え

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ずいぶん間が空いてしまいましたが、03/01/24の心理学系学部・学科を志望する高校生の皆さんへ – 「本当にその選択でいいのですか?」、そして03/01/28の心理学系学部・学科を志望する高校生の皆さんへ その2 – 「大学選び」どうします?の続編です。未読の方はまずはそちらから。

さて、新年度に入り新・大学1年生の皆さんの新しい生活の始まりつつある頃だと思います。今日あたり、入学式が行われる大学も少なくないことでしょう。

新しく心理学系学部・学科へ入学される方々、そして来年度以降心理学系の学部・学科の受験を考えてらっしゃる方々には是非ともこの記事を読んでいただきたいと思います。

大学2

「心理学」ってどんなイメージ?

最初に謝りたいと思います。タイトルの「たった一つの」という部分は若干釣り要素を含んでおります。ちょっと言い過ぎました。ごめんなさい。

さて気を取り直して…心理学系の学部・学科に入学される新大学生の皆さん、そしてそれらの学部・学科を志望する高校生の皆さん。皆さんは「心理学」と聞いてどんなイメージを浮かべますか?

カウンセリング?

確かにカウンセリングや心理療法は臨床心理学という分野の一側面ではあります。

犯罪心理学?

「臨床心理士」や「心理学者」などが「犯罪者の心理」についてコメントしていたりするのをニュースなどではしばしば目にしますよね。

血液型性格診断?

…これは心理学の領域では、既に様々な研究から信憑性がないことが明らかになってます。

皆さん、様々なイメージを持ってらっしゃることと思いますが、少なくない人数が入学してから「聞いてなかった!」「そんなの知らなかった!」とおっしゃる「あること」があります。

ひょっとしたら、オープンキャンパスなどの際に既に情報を仕入れいたり、あるいは入学時のオリエンテーション等で聞いていてご存知の方もいるかもしれません。

その「あること」とは…

「統計」が必須なのです

大学受験の情報を集める場合、心理学系の学部・学科はほぼ100%の確率で「文系」にカテゴライズされているはずです。そういったこともあり、特に私立大学では入試科目に数学が含まれるところは少ないはずです。国公立大学でも2次試験で数学必須のところはあまりないと思います。少なくとも私が知っている時代はそうでした。

さて、大学を卒業する際には卒業研究をして、卒業論文を書かねばなりません。最近では就職活動なども考慮して、卒業研究を必須としない大学もあるようですが、それはまた別のお話なので置いておきます。とにかく大学を卒業するためには研究をしなければならないわけです。

ご存知の方も多いと思いますが、心理学には様々な分野があります。臨床心理学、社会心理学、発達心理学、教育心理学、実験心理学…などなど。そして、その中でたくさんの研究手法が用いられます。実験であったり、アンケート調査であったり、あるいは面接であったり。

そうした研究結果をまとめるために、数値化して統計処理を行う必要があるのです。

統計処理を行うってどういうこと?

例えば「血液型がA型の人は他の血液型の人と比較して几帳面な性格である」という仮説があるとしましょう。

この仮説を検証するにはどうすればいいでしょうか?

「自分の周りのA型の人はみんな几帳面だよ!」といったところで、それは仮説が実証されたことにはなりません。たまたまその人の周りの数人がそうであっただけかもしれないし、そもそもそれらの人が本当に几帳面なのかどうかという問題もあります。

この仮説を検証するために、まずは「几帳面さ」を測定するための方法が必要になります。

いくつかの方法がありますが、それを測定するためにアンケート用紙…質問紙と呼びますが、それを作るとしましょう。質問紙にいくつか書かれた項目に対してどのように回答するかに基づいて、その人の「几帳面さ」を数値化するわけです。

ちなみにこの質問紙を作成する際にも統計的な手法は必須となります。

「几帳面さ」が測定できたら、今度はA型の人と他の血液型の人の得点を比較する必要があります。

何人かの人に対してこの質問紙を実施して、A型の人と他の血液型の人、それぞれの平均点を出したとして…どの程度の差があれば「差がある」と言えるのでしょう?1点でも上ならば「差があった」と言えるんでしょうかね?

ひょっとしたらその差は偶然、たまたま生じた差なのかもしれません。どれくらいの差があれば「その差は偶然生じたものではない」と言えるのか…?

それを検討するために統計的な手法が用いられるわけです(細かい計算方法まで書き出すと膨大な量になってしまいますので詳細は割愛させていただきますが)。

だったらやっぱり数学は必須なの?

そうは言っても、研究をする上では統計解析用のPCアプリを用いて行うので、実際に自分の手を使って計算することはほとんどないです。

統計手法の詳細を理解するというか、実際にどのような計算処理がなされているかを理解するためには、例えば行列であったり、ベクトルであったり、あるいは微分積分の知識が必要です。

しかし、学部の心理統計の講義・演習であれば、とりあえず四則演算(+・-・×・÷)や分数の計算ができて、Σ(シグマ)の記号の意味(=合計するということ、ですけど)がわかって、あとは二乗とか平方根(ルート)を理解してさえいれば十分です。

つまり「数学(算数)アレルギーがないレベルであれば大丈夫」ということになります。

ただ、高校で数学をほとんどやっていない、少なくとも大学入試で使っていないということになると、やはり苦労することはあるかもしれません。特に「数学が苦手だから文系で」とか「文系だから数学やらなくてもいいよね」なんて思っている人たちは。

そう言った人たちにこそ、事前に「心理学では統計が必須」ということを知っておいていただきたいのです。入学してから「話が違う!」「そんなの知らなかった!」「知ってたら心理に来なかったのに!」とならないためにも。

「統計=武器」だと思います

私は学生から研究者まで、心理学を学ぶあるいは心理学を生業とする全ての人たちにとって統計手法は重要な武器の一つだと思っています。少なくとも自分が言いたいことを説得力をもって伝えるためには必須の武器です。

臨床場面ですら、特に心理検査に関して言えばほぼ全て統計的処理があってこそのものであり、統計学的な考え方を身につけていることがより豊かなクライエント理解に繋がると私は考えます。

心理学を仕事にする場合のみならず、世にあふれる様々な情報、データを見て自分の意見を作り上げていく際に、科学的な考え方は必須となりますし、そのために統計学的な思考は非常に役に立ちます。必ずしも「統計学を身につける=科学的思考を身につける」ということではありませんが、統計的な思考を身につけることで理解できてくることは多いはずです。

つまり心理学を専門とした仕事以外に就く場合でも、心理統計という学問に触れておくことは無駄にはならないというわけです。

心理系学部・学科を志望する全ての人へ

以上で「心理学系学部・学科を志望する高校生の皆さんへ」というシリーズはいったん終了となります。

私の書いた内容が心理学系学部・学科を志望する皆さんの参考になれば幸いです。

私は心理学をとても面白い学問だと思います。臨床心理学に限らず、もし今からでも大学で講義を受けられるのであれば、全ての分野の講義を受け直したい、そう思えるくらい面白いです。

ひょっとしたら数学アレルギーの人で既に心理学系学部・学科に入学されてしまった方もいるかもしません。あるいは、心理統計の講義・演習を受けて「進路選択に失敗した」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

でも、皆さんの努力は決して無駄にはならないはずです。めげずに頑張ってください。

私は心理学系学部・学科を志望する全ての人を応援しております。

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