臨床心理学 資格問題

7年前に私が考えた理想の臨床心理士養成課程

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asatsuyu

13/10/16のエントリ、7ねんまえにぼくがかんがえたさいきょうのりんしょうしんりしようせいかていの続きになります。未読の方はまずはそちらをお読み下さい。

さて、前回の「7ねんまえにぼくがかんがえた〜」は、あくまでも「夢想」であり、子どもレベルの「空想」「ファンタジー」と言ってもいい内容でした。

あの案のどこが現実的ではないのか?まずはそこから考えていきたいと思います。

博士課程までの学費は?

単純に、博士課程まで進学したとして、どの程度のお金がかかるか見てみましょう。

入学から卒業までの「学費」|お金の話Benesse マナビジョン 保護者版

例えば、国立大では学部4年間の入学料と授業料のみで242万5200円です。私大文系だとそれが386万2123円となります。

そして、同じだけの大学院5年間で同じだけの授業料がかかったとすると、大学院の入学料を入れずに計算して、国立大では564万円。私大文系だと927万5557円です。

それ、誰が支払うのでしょうか?

親がそれなりに裕福ならいいですが、そうでない場合…

奨学金を使うという手はありますね。でも、それは「借金」ですよ。博士課程まで修了して、その後、ワーキングプアになったら…返済できないですよね。

もちろん、かかる費用は学費だけではありません。その間の生活費も当然必要であり、実家から通学するならまだしも、一人暮らしをしたらどれだけかかることか…。

当然、多くの方はバイト等でまかなうのでしょうけれども、そうなってくるとその分、研究や臨床のトレーニングに費やす時間は減ってしまいます。そうなってくると、わざわざ「博士課程修了」レベルで設定したことが足かせになって、研究や臨床のトレーニングが遅そかになるという本末転倒な話になります。

女性の場合、結婚・出産がより高齢化することに

さらに、女性の場合、学生である期間が長くなることで、結婚や出産の年齢が後にずれ込む可能性が高くなります。

晩婚化とそれに伴う高齢出産の増加、さらには少子化が問題となっている中で、資格取得のために「博士課程」修了という高いハードルを設定することは、時代の流れに逆行することになるのではないかと思われます。

もちろん、結婚や出産を望まない女性ならば、それはそれで構わないと思います。しかし、結婚をして子どもを持ちたいけれども、専門家としてのキャリアプランも抱いているという女性の場合、どちらかを諦めねばならない可能性が高くなるでしょう。

学生結婚をしたり、あるいは結婚、出産を経てから学校に戻るという選択もあるかもしれませんが、それも「親が裕福」なケース同様、世帯収入がかなり高くないと難しいです。

「仮免許」制度は活かして、修士課程は研究メインで

このように「博士課程修了」を条件にすると、現実的には様々な問題が生じてしまいます。

ではどうするか…?

前回の「7ねんまえにぼくがかんがえたさいきょうの〜」で「仮免許」という制度案を出しましたが、それは活かしていくことにしましょう。

その上で

・修士課程在学中は研究能力の向上と基礎的心理臨床技術の修得を目指す

ということでどうでしょう。

「仮免許」の受験資格を得るために、例えば「事例研究以外で査読つき投稿論文1本」程度を条件とすれば、適度にハードルも上がっていいのではないかと思います。

繰り返しになりますが、「研究の能力が高い人=臨床実践の能力が高い人」ではありません。しかし、臨床心理士(そう。これは「臨床心理士資格」についての話です)がその業務の一つとして「臨床心理学的調査・研究」を掲げているのであれば、やはり最低限の研究の能力は必須でしょう。

現状では「資格をとるために大学院で修論書きました」という方は少なからずいらっしゃると思います。そういった意識で、本当に研究の能力が身につくかというと、全くそんなことはないと思うのです。

オフィシャルなSV制度の拡充

そして修士課程修了後、問題になるのは「研修制度をどうするか」ということでしょう。

これはもう、オフィシャルなSV制度の拡充ということでいいんじゃないでしょうか。

あえて「公的」ではなく「オフィシャル」と書いたのは、あくまでも学会公認、あるいは認定協会公認の制度ということで、法的に定められたものではないということを意図しています。

スーパーヴァイザーの資格を持っている臨床心理士1名につき、研修生○名まで受け入れ可能とか決めて。あとはSV資格保持者の職場で受け入れてもらうことにしましょうよ。そして認定協会的なところからSV資格保有者には研修生報酬を出してもらいましょう。

その間、仮免保有者はあくまでも仮免保有者としての賃金しか保証されないかわりに、SV料金は格安、あるいは無料にする、と。

スーパーヴァイザーの所属機関は仮免保有者を安く使える(これには期間や人数などについて、ある程度の制限が必要かと思いますが)、SV資格保持者は(恐らく正規の料金ほどではないでしょうけど)報酬がもらえる、そして仮免保有者は賃金的な部分では我慢する必要がありますがSVを無料で受けられる。

win-win-winの関係成立です。

あ、利用者はどうなるのか?という最大の問題が残りますが、「仮免保有者」の場合の利用料金を安く設定し、さらに「仮免保有者」と「臨床心理士資格保持者」、そして「SV資格保持者」の3者をある程度自由に選択できる…という形にするということでどうでしょう?

その上で、各資格保持者について「どんな資格を持っているのか」をウェブや電話、書面等、複数の方法で照会が出来るようにしておく、と。

最大の問題はやっぱり「お金」

こんな感じで、前回の「7ねんまえにぼくがかんがえたさいきょうの〜」よりは多少現実的な案が出来たのではないかと思います…が、最大の問題が残っています。

それは、色々な意味で「お金」をどうするか?ということです。

上では認定スーパーヴァイザーに対して、簡単に「認定協会的なところからSV資格保有者には研修生報酬を出してもらいましょう」と書いたのですが、じゃあ、その原資はどうするんでしょうか?

あるいは認定スーパーヴァイザーが所属する機関が、いくら安く使えるとは言え、研修生の受け入れなんてそう簡単に出来るものでしょうか?スーパーヴァイザー資格保持者は研修生の教育に時間を割かねばならないわけで、提供されるサービスの量・質ともに低下してしまう可能性があります。

そして、仮免保持者がどの程度の賃金で生きていけるか?という問題もあります。正式に資格を取得した段階でまっとうな生活を営むことの出来る程度の賃金が得られないのであれば、専門性を保つということは不可能でしょう。

まともにこの仕事をやっていこうと思ったら、SVなんてずっと受け続けなければいけないわけですし、研修や学会への参加も欠かせません。

さて、その辺を踏まえた上で、さらに次回は「今、私が考える超現実的な心理師(仮称)養成課程」について書いてみたいと思います。

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