臨床心理学

「食育」が気になる その6-描画の解釈について思う-

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数年前の心理臨床学会の年次大会に参加した際、ある「基礎研究」の発表を聴きにいったんですよ。当時も今も実は描画に興味がある私が選んだのは、ある描画技法を用いた研究で。でも、抄録読んでる時から嫌な予感はしてたんですよね。「どうもハズレ臭い」と。
思った通りハズレでした○| ̄|_
発表者は高校だか中学校だかの教員でSCもやってる臨床心理士な人で、修論である描画法とある質問紙法との関連を検討するということをやったんだけど、統計的に有意な結果が出なかったということで、発表時間のほとんどは絵の解説に終始。わたくし的にはかなり時間を無駄にした…という感じでございましたよ。
で、手続きの説明では「学校という場面でその調査を行うのがいかに大変だったか」という話を延々とされてました。そりゃあ大変でしょうよ。現職の教師がアセスメント技法の一つである描画法を行うのだから、その行為が意味するところはかなり気をつけなきゃいけないわけで。
何よりも集団で実施した描画というのは描かれた文脈が不明瞭というか、非常に薄まってしまうわけで、本来であれば解釈自体が無意味なことだと思うですよ。豊富な先行研究によって解釈仮説がある程度妥当なものであるということが明らかになっていない限りは、集団施行での描画は解釈すべきではないと思うですよ。
投影法で見出される結果というのはあくまでも被検者-検査者間の関係性の中から見出されるものであり、そうした文脈を無視して解釈してはならないのですよ。
で、ようやく本題です。
朝ごはん実行委員会による<小学生の朝食絵画調査>の結果、特に絵画の解釈を見て上記の出来事を思い出した次第であります。
まずは過去ログを未読の方はそちらからどうぞ。
「食育」が気になる(05/10/13)
「食育」が気になる その2(05/10/14)
離乳食の頃(05/10/14)
抑うつ傾向および学校不適応と食行動の関連?(05/10/17)
「食育」が気になる その3(06/07/07)
「食育」が気になる その4-朝ごはん実行委員会って何?-(06/07/12)
「食育」が気になる その5-朝ごはん実行委員会へのツッコミ-


そもそも、これまで書いてきた通り、この調査自体非常に恣意的なものを感じてしまうのです。ごはん食を推進する立場であるJAが母体となって行っているわけで、そりゃあ都合の悪い結果は出せないでしょうから。
でまあ、それはそれとして…ようやく絵の解釈まで来ました。分析(と呼ぶのもおこがましい妄言の連続)をされているのはこの方です。

室田洋子

桜美林大学講師を経て、現在、聖徳大学人文学部教授。
臨床心理士。専門は発達心理学、臨床心理学。教育研究所、保健所、臨床相談室などで教育相談活動を続ける。
『見つけよう 自分流子育て』(PHP研究所)ほか著書多数。
3児の母。

描画についての説明はこちら。詳しい教示とか教えて欲しいところですよね。それによって結果及び考察はかなり変わってくるかと。

絵はKFD(Kinetic Family Drawings=動的家族画の略。緊張を解いて、自分の心に映った風景をそのまま描いてもらい、心に受けた印象が、絵に投影されるのを分析する心理的な方法)の手法で分析しています。

では描画の解釈、チェケラ!

現実の朝食:男子・5年生・ごはん
誰と:一人
どこで:電車
何を:おにぎり
どんな気持ち:おいしいな

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忙しい、いそがしい。朝食はいつも電車の中でとる。食べていなければお腹はすくから。もちろん隣は知らない人。食事の会話などあるわけがない。他人の視線も気にしない。食事の作法どころの話じゃない。忙しいのだ僕の日常は。食事は胃袋に詰め込む事なのだ。

これ何てTAT?
まさに“室田洋子氏がTAT受けてる状態”ですよ。誰も「物語を作りなさい」って言ってないと思いますよ(それとも誰か言ったのか?)。初学者が勘違いするから、こういういいかげんなことは書かない方がよろしいかと。
この絵画からわかるのは「この子は一人で電車の中で朝食を摂ることが多いのかもしれない」くらいのことですよ。ある程度時間をかけた面接を行わない限り、これ以上のことは言えないし、言ってはいけないと思います。まともな心理臨床家ならば。
同じ人の理想の朝食です。

理想の朝食:男子・5年生・ごはん
誰と:家族全員で
どこで:家
何を:みそ汁、白米、おかず
どんな気持ち:すごくおいしい。

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僕の理想のお食事は茶碗に入ったご飯と味噌汁。あったかい湯気がでている食べ物。それに家族のみんながいたらニコニコしてしまいそう。ウインナとパンもあるといいな。この子にとっては、このような食事がないので、人より大きな茶碗が描かれているのです。

へー。「このような食事がないので、人より大きな茶碗が描かれている」んだー(棒読みで)。
ひょっとしたらその可能性はあるかもしれないです。でも、「人より手前にあるから大きい」って考え方もできませんか?「大きく描かれたもの=願望を表す」とかって占いレベルのことを言われても…。あくまでも可能性でしかないことを「~です」と断言するなんてことは、まともな心理臨床家ならやらないでしょうね。

現実の朝食:女子・5年生・パン
誰と:お母さん、弟
どこで:食卓
何を:パンとサラダ
どんな気持ち:おいしかったが、パンが少しかたかった。

genjitsu2.jpg

会話が乏しい人マーク絵の食卓状況です。パンと牛乳とサラダの食卓は会話のないままに忙しく食する状況が映し出されています。せわしい気分が先行しているために家族の様子はマークで示され「本当は食卓で何を話したか」については思い出せないのです。

「人マーク」=「会話が乏しい」ですか?その根拠は?人を詳細に描くのがめんどくさかったって可能性は?
同様に「パンと牛乳とサラダの食事は会話のないままに~」ってどういう根拠で言ってるですか?米のごはんよりもパンの方が好きなだけかもしれないじゃないですか?
「「本当は食卓で何を話したか」については思い出せないのです」に至っては妄言としか言いようがないですね。
こんなでたらめな解釈を垂れ流すなんて、まともな心理臨床家ならやらないでしょうね。
同じ子の理想の食卓。

理想の朝食:女子・5年生・パン
誰と:芸能人(嵐の相葉ちゃん)
どこで:家
何を:パンとフルーツ
どんな気持ち:かんげき!?

risou2.jpg

人マーク絵の理想の朝食です。食事の相手は「芸能人」ですが、華やかなはずの食卓に会話の賑わいは見られません。お花もフルーツも潤沢にある、水槽にはお魚までもいる食卓ですが、会話の内容が思いつかないのです。人間関係能力の低さを示しています。

好きな相葉ちゃんとの食事、いいじゃないですか。俺も松浦亜弥と朝食食いてえ(ハァハァ)。
とりあえず「人マーク」=「人間関係能力の低さ」って機械的な解釈はやめましょう。てか「人マーク」=「描画能力の低さ」って可能性とか考えないんですかね?
人マークだから絵が下手ってことは言いませんけど、色んな要因で普通に厚みがあって服を着てたりする表情があったりする人を描くことができる子どもが人マークの絵を描く可能性はあるわけで。「めんどくせ」と思ってたりとか。
「お花」とか「フルーツ」とか「お魚」とか描きたかったのかもしれないじゃないですか。「人」は難しいから描きたくなかったのかもしれないじゃないですか(実際難しいです)。勝手に決めつけんなよ
ってことはあれですか。漫画が上手な小学生が人を上手に描けたら、人間関係の能力は高いってことですか?んなわきゃねーわな。
・・・・・・・・・・・・
他にもツッコミどころ満載なわけですが、同じことの繰り返しなのでこの辺にしておきます。
どんな事情があってこの分析(という名の妄言)を引き受けたのかはわかりませんが、出来ないことは出来ないと言うのもプロとしての、心理臨床家としての、臨床心理学者としての責任だと思います。
非専門家以外の人も数多く見るであろうこうしたサイトで、このような無責任な調査結果とその分析を垂れ流すことの問題を考えて欲しいものだと思います。
室田氏や関係者の皆様、このエントリに反論があるのであればコメント欄にてご自由にどうぞ。私が間違っているところがあれば謝罪の上、速やかに内容修正させていただきます。こちらとしては是非ともコメントいただきたいところ>関係者各位
…っていうか、こういう人が大学で卒論や修論の指導とかしているとしたら、薄ら寒い感じすらしてしまうわけですが。
この業界の未来はやっぱり真っ暗かもしれません
※追記:7/21 AM8:15 上から2番目の画像が1番目と重複していたため差し替えました

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