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『ロールシャッハテストはまちがっている』を読む-第1章 心を映すエックス線:ロールシャッハテストの威力

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『ロールシャッハテストはまちがっている』を読む-プロローグ(06/03/14)
を未読の方はまずそちらからどーぞ。
この本の本格的レビュー開始です。

ロールシャッハテストはまちがっている―科学からの異議 ロールシャッハテストはまちがっている―科学からの異議
ジェームズ・M. ウッド スコット・O. リリエンフェルド M.テレサ ネゾースキ

北大路書房 2006-02
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※ご注意
ロールシャッハについて学んだことのない方はこのエントリ及び上記書籍はお読みになられないことを強くお薦めいたします。
受ける前にロールシャッハについての知識を得てしまうことで、本来それによって得られるはずの利益が得られなくなる可能性があります。それは検査を受ける側にとっても行う側にとっても不幸な事態であると言えます。
それでもネット上で知識を得てしまうことはあります。もし、受ける前にそうした知識を得てしまった人がロールシャッハを受けることになった場合は、その旨をテスターにお伝え下さい。それなりの力量がある検査者であれば、適切な対処がなされるはずだと思います。

では、上記の注意事項を読まれた上で以下を読んでも良いと判断された方のみ続きをどうぞ。


さてレビュー開始。まずは『第1章 心を映すエックス線:ロールシャッハテストの威力』ですが…
いきなり章のタイトルからしてダウトです。本当にロールシャッハは「心を映すエックス線」なのでしょうか?
この本で「ロールシャッハテストに関して現在もっとも強い影響力をもつ2人の権威、ジョン・エクスナー(Exner, J. E.)とアーヴィング・ウェイナー(Weiner, I.)」と名前が挙げられているところの1人であるワイナー(こちらの訳の方が多いですが…発音としてはウェイナーの方が近い?)は、秋谷たつ子・秋本倫子(訳)『ロールシャッハ解釈の諸原則』(みすず書房)Weiner, I. B. 1998 Principles of Rorschach Interpretation)(はっきり言ってロールシャッハをとる人は必読!かと)の中で、ロールシャッハは「テスト」と捉えるよりも、テスト以上の「方法」であると捉えるのが妥当なのではないか、という主張を展開しています。
抜粋すると長くなるので簡単にまとめると(というか今、実際に必要な箇所をコピペしようと思ったら、異常な量になったので却下)、ロールシャッハは半構造化面接法あるいは観察法の一種であると捉えるのが妥当なのではないか、ということになります。
…と考えると、やはり「目隠し分析」は意味がありません。プロトコルとそこから得られるスコア以外の情報が削ぎ落とされてしまうのは、総合的なデータ収集の方法である面接法・観察法では致命的なことであるからです。
ロールシャッハはエックス線のようなものではありません。エックス線画像はある程度習熟した人であれば(これもやはり習熟は必要ですわな)、誰が見ても大体同じような検査所見になると思いますが、ロールシャッハの目隠し分析は全く意味合いが違います。検査じゃなく面接法・観察法なのだから。
第1章の冒頭p.2から、ある人物のロールシャッハの目隠し分析がなされていますが、これが「外れている」と主張することには意味が(意義が)ありません(そういえば村上宣寛著「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見たでも目隠し分析を元に批判されてましたなぁ…)。
で、その被検者は○○だったわけですが(一応ネタバレ回避のため伏せ字にします)、当然のことながら彼はロールシャッハに関する豊富な知識を持ち合わせています。となると、その知識が結果に影響している可能性は多分に考えられるわけですが、彼はその点についてこう述べています。

私にいえるのは、反応をつくろうとしたり、ある特定の結果が出るようにしたりせずに、テストを素直に受けたということだけである。

この手の主観的評価がどの程度妥当なものであるのか…素人ならともかく、まともな心理学者であればこの言葉をそのまま鵜呑みにはできないでしょう。
…………………………
さてp.8からは『ロールシャッハテストと子どもの性的虐待疑惑』ということで、ロールシャッハの結果が悲劇的な影響を与えてしまったあるケースが提示されています。この事例を根拠にまた様々な批判を展開しているわけですが
…これ結局テスターがDQNだったという一点が問題であり、ロールシャッハに罪はないと思うですよ。
このテスターがなんでDQNかというと(そういやDQNって久々に使ったな)
・他に検査をやっており(たぶんね)、生活史もとっているにも関わらず、ロールシャッハの結果だけを判断材料にした(完全に目隠し分析状態。テストバッテリー組む意味もないじゃん)
・スコアリングも間違う程度のレベルである
ということに尽きますよ。
筆者は

 まず私はこの判定報告書を書いた心理学者の無能を疑った。しかし本当はそうではなく、彼女は自分が受けた訓練に従って、その仕事をきちんとこなしたことがしだいにわかってきた。

とありますが、テストバッテリーで他のテスト結果を無視してロールシャッハだけを盲目的に信じ、スコアリングを間違うようなレベルのテスターのどこが「仕事をきちんとこなした」って言えるんでしょうか?意味不明でございますよ。
ワイナーは『ロールシャッハ解釈の諸原則』の中でこう述べています。

RIMの質がよく、適切な方法で測定されるなら、この道具の妥当性を支持する積極的な証拠を提供する結果が得られるということである。

(p.33)
※RIMはRorschach Inkblot Methodの略。ロールシャッハを「テスト」ではなく「方法」であるとする考え方に基づいて、この用語は用いられている
結局、ロールシャッハの知識だけでアセスメントはできるものではなく、アセスメント全般の知識(他の心理検査だったり、臨床心理学的・精神医学的評価だったり)に精通してこそ、初めてロールシャッハは有効に使えるのですよ。例に挙げられているDQNはそもそもロールシャッハ使っちゃいけない人なのですよ。
…てか、これほんとに事実なの?とりあえず批判するための創作じゃないの?と思えてくるくらいひどい話でございました。
…………………………
さて、こんな感じではじまりましたレビュー(というか反論)、いかがでしょうか?え?長すぎって?ま、それは突っ込まないでくださいよ。
あ、p.18から『本物の図版は本書にはない』ということで、なぜ本物の図版を載せなかったかが書かれており、この辺はかなり良心的だと思います。
今後どんな展開になるのか期待です。
…てか、引用文献にちゃんとWeiner, I. B. 1998 Principles of Rorschach Interpretationが載っているのに、今回挙げたようなワイナーの考え方は完全無視ですかそうですか。どんな文脈で引用されているのか楽しみです。ちゃんとこの本に対する批判・反論がなされていることを期待しましょう。

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