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【事例研究における】心理臨床家のための「事例研究」の進め方【一般化】

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タイトル長い。
えーと、これはこのBlogのどこかで既に書いたことのある内容かもしれませんが、何度でも言わせてもらいたいと思います。
たまにいますよね。「修論は事例研究で書きたい」なんて寝ぼけたことを言っている人が。「だから大学院でちゃんとケースが持たせてもらえるところじゃなきゃイヤ!」とかね。そういう人には声を大にしてこう言いたいです。

事例研究なんて大それたことやるなんざぁ、百年早ええよ!


実際、事例研究って大変ですよ。実験だったり調査だったりというのはわかりやすい仮説があって(そりゃ自分で設定した仮説なんだからわかりやすいわな)、変数も統制されており(ちゃんと統制してればね)、さらに科学的な実証研究のひとつのキモである「一般化」がしやすいのに対して、「一つの事例から全体へと一般化する」というのは非常に困難な作業であります。別に非科学的な「文学もどき」の「事例報告」だったらそんなことは意識する必要はないのかもしれませんが、事例「研究」と銘打つからには「一般化」を目指してナンボのもんなんじゃあないですかね?
この辺りについてこの本にちょっと面白いことが書かれていました。

心理臨床家のための「事例研究」の進め方
山本 力 鶴田 和美

北大路書房 2001-09
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ロテ的お薦め対象:大学院生~現場の人;研究に役立つ本
この本の2章は「研究法としての事例研究」ということで「事例研究とは何か?」ということが書かれているのですが、その中にまさに今回のエントリーのテーマである「事例研究における一般化」という一節があります。(1)「典型例」の抽出と分析・(2)事例から理論への一般化・(3)くり返しによる検証・(4)累積的事例研究の中の(3)から引用してみます。

 心理療法の過程において、クライエントの行動に似通った行動パターンがくり返して確認される。そこで、面接者はクライエントの本質的な心のダイナミズムや構造を理解することができ、それを整理し明確化していくことになる。長期のプロセスをたどるとこの反復性が確認されるので、理解した内容の内的妥当性が高まるといえる。
 それは、以下のような河合(1976)の言及にも示唆されている。「(心理療法の旅路という)長い期間に生じる両者の人間関係のあり方を一回一回、一つの実験として考えてみるならば、1人の人間の事例とはいいながら、それは被験者100名に値する重みをもっている…。一つの事例の記述の中に何回もの仮説と検証の過程が組み込まれている」

ってこの「河合」はハヤオのことなんですが、隼雄タンGJじゃないですか。なかなか良いことを言っております(って俺は何様だ?)。この「事例の中に何回もの仮説と検証の過程が組み込まれる」というのはわたくしもさんざん主張してきていることであります。
さらに引用してみましょう。

この発言が、スキナーの単一被験者の実験デザインに関する発言とも軌を一にするのは不思議なことである。「1時間ずつ1000匹のネズミを用いて研究するかわりに、あるいは100匹を10時間ずつ研究するかわりに、1匹のネズミを1000時間研究する方が見込みがある(吉村, 1989)」と。

1970年代には隼雄タンもいいこと言ってたのね(いや、今もいいことたくさんいってますよ、たぶん)。
少なくとも事例「研究」を目指すのであればこのくらいの視点は持ってないと「一般化」なんてことは不可能です。ただほんと、修論で事例研究ってのだけはやめてください。こうした視点以前の問題として、そもそも自分の事例・自分の臨床実践が事例研究としてまとめるに値するものかどうか冷静になって考えれば、とても恥ずかしくてそんなこと言ってられないと思うんですけどね。え?そんなお前は事例研究にできるような臨床やってるのかって?
私なんざぁほんとまだまだでございますよ。
さて、かように事例研究においての一般化を目指すことはできないわけではありません。臨床心理士になりたい人ためのサイト客観性と主観性のバランスというトピックで議論が進行中なのですが、今回のエントリーはちょっとその内容に関連するのではないかと思った次第であります。
今回ご紹介した書籍にはその他にも色々と興味深い内容が書かれておりますので、よろしければこちらのブログ経由で買っていただけるとロテ職人感激でございます。

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