臨床心理学

ネットを用いたサンプリングの問題

投稿日:

[家族心理.com]管理人ブログの08/09/20のエントリ、”妻”方多世代同居家族 急募!!! で調査対象者の募集がなされております。
そちらのエントリに昨日、コメントさせていただいたのですね。
以下、私の書いたコメントです。

Posted by ロテ職人 2008年09月24日 21:30

ものすごく単純かつ素朴な疑問なのですが、こういう形でネットで調査対象者を募集する場合、標本に偏りが生じる可能性というのはないのでしょうか?

他の募集方法との兼ね合いもあると思いますが、「このブログを閲覧していて」かつ「自ら応募してくる」という時点で、何らかのバイアスが入ってくるように思います。

ネット上での調査対象者募集に関しては、いつもそのような疑問がつきまとうのですが、【家族心理.com】管理人さんのご意見、お聞かせ願えますでしょうか。


それに対するBoBoさんのコメントがこちら(改行位置改変させていただきました)。

Posted by BoBo 2008年09月25日 11:28

ロテ職人さんに質問です。

ロテ職人さんが言われるネットで調査するバイアスというのは、本当に調査対象の条件を満たしているのか確認の手段がないということでしょうか。

今回は、単なる協力者の募集や紹介のお願いのように見受けられます。調査自体は面接なり電話調査で行われるのであれば、他の募集方法と協力者の質のリスクは同様ではないかと考えます。

研究内容によっては、調査を大学や団体で行うなど所属のはっきりわかる協力者を用いることも可能ですが、このような多世代家族の研究などの場合は広く協力者を募る必要があり、どこかに所属する方々にお願いするというのも難しいのではないかと思う次第です。本人確認がまったくできないネット上でアンケートを行うというのではく、協力者を募るというのであれば一考かと思います。

また、このように広く協力者を募る場合にどのような方法が考えらますでしょうか。

私のような後輩のためにも、ロテ職人さんのアイデアやご意見をいただけますと幸いです。

[家族心理.com]管理人さんからもコメントいただきました。

Posted by 家族心理.com管理人 2008年09月25日 16:01

もちろん偏りは生じます。しかし、「どのような偏りを選択するのか」ということだと考えています。

BoBoさんの質問にもありますが、ではどのように妻方多世代同居の妻を募集すればよいとお考えでしょうか。お考えを伺いたいと思います。

では順番にお答えします。
私が言うところの標本の偏り、バイアスというのは、家族心理.comと名前のついたウェブサイトあるいはブログで家族心理学研究の調査対象者を募集するってところから生じる可能性があります。
そちらのサイト・ブログの訪問者というのは、それぞれ色んな理由があって閲覧しているのだと思うのですが、多くの方は「家族心理学に興味があって」「自ら検索なり何なりでサイト・ブログにいきついた人」なんじゃないでしょうか。
そういう人たちが果たして母集団を代表する標本になるのか?ってことが問題なわけですよ。
そういうことで、BoBoさんの

ロテ職人さんが言われるネットで調査するバイアスというのは、本当に調査対象の条件を満たしているのか確認の手段がないということでしょうか。

は、違いますね。
むしろ、家族心理.com及び[家族心理.com]管理人ブログを見て応募してくる人は、恐らくその辺でのごまかしはしないでしょう。
そういう人たちは相当興味があって応募してくるはずです。謝礼についても書かれていないので、謝礼目的ではないでしょうから、ホント純粋に興味・関心で。ある意味では「良い」サンプルなのかもしれません。そして、それだけに偏りは大きいと思われるのです。「家族心理学に興味を持っている人たちである」という点で。

このような多世代家族の研究などの場合は広く協力者を募る必要があり、どこかに所属する方々にお願いするというのも難しいのではないかと思う次第です。

はい。難しいですし、「どこかに所属する方々」って時点でやっぱり偏りは生じます。
Wikipedia標本調査の項目の「抽出の枠」ってところにこんなことが書かれておりますよ。

抽出枠は母集団を代表するものでなければならないが、これには統計学だけでなく個別の分野での判断も重要である。

一例を挙げると、1936年のアメリカ大統領選で、Literary Digestは200万人の調査から、対立候補がF.D.ルーズベルト候補に勝つ(57%対43%)と予想したが、ギャラップは30万人の調査からルーズベルトの勝利を予想し、結局こちらが正しかった。Literary Digestは電話や自動車の保有者リストを用いたので、標本のサイズが莫大だったにもかかわらず富裕層に偏ってしまった。同じようなことは、近年のインターネットによる調査でも問題になっている。

この辺に関して、手元にこの本があったのでちょこっと調べてみました。

心理学論文の書き方 心理学論文の書き方
松井 豊

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p.79 4章 方法 ■研究参加者の抽出方法・依頼方法 より

 無作為抽出していない実験や調査では、被験者がどのような点で統制され、どのような点で偏っているかが読み手に分かるように、記述します。大学の講義中に質問紙を配布するような形で、研究参加者を募集した場合には、無作為に抽出されていませんから、読み手が参加者の偏りを推定できるように、依頼手続きを記述します。募集時に謝礼を渡すことを約束している場合には、それも記述します。
(中略)
 たとえば、資料4-3(資料略)の手続きであれば、研究参加者は心理学に興味がある3年生までの大学生に偏っていますし、任意参加ですからボランティアバイアス(援助性が高い人のみが参加することによるバイアス)もかかっています。

今回の件では家族心理学に興味がある(多分相当)人であり、任意参加ですから当然ボランティアバイアスはバリバリかかっておりますわな。
ものすごく当たり前の話ですが、この手の調査の場合、やっぱり無作為抽出、ランダムサンプリングが一番いいに決まってますよね。ただ、現実的にはそれは難しい…となった場合、やっぱどの程度偏りを統制できるか、どの程度工夫するかってところは研究のミソなんじゃないかと思うわけです。
家族心理.com管理人さんは

「どのような偏りを選択するのか」ということだと考えています。

と書かれておりますが、今回私が挙げたような偏りは許容範囲とお考えなのでしょうか?少なくとももう少しコントロールできる部分はあるんじゃないかと私は思いますよ。
…ということで、長くなったので続きはまた別エントリで。
関連エントリ
ネットを使った卒論のためのアンケート調査について思うところなど(08/06/25)

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