資格問題

奈良県臨床心理士会のウェブサイトに掲載された「緊急・国家資格化に向けて鳥取県から」を読んでみた その2

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続きです。「その1」を未読の方はまずはそちらをどうぞ。

奈良県臨床心理士会のウェブサイトに掲載された「緊急・国家資格化に向けて鳥取県から」を読んでみた その1(12/05/23)

あとは昨日のエントリもですね。

奈良県臨床心理士会のサイトから「緊急・国家資格化に向けて鳥取県から」の文章が削除されている件

そういえば「その1」にコメントいただいておりました。コメント投稿してくださった“とりんどる”さん、ありがとうございます。

コメント引用します。

質問は菊池さんが発案し総会で通ってしまったものです。その後のやりとりは菊池さん個人の考えで進められています。最初の発案の時点では「質問」の他に「要望」がありましたが、それは理事会(?)で止められたそうです。

明言はされておりませんが、コメント内容を見る限り、“とりんどる”さんは鳥取県臨床心理士会の内部情報にある程度詳しい人…ということでいいのでしょうか。

“とりんどる”さんによると、質問の内容(日本臨床心理士会に質問をすること)は鳥取県臨床心理士会事務局長・資格法制化問題担当の菊池義人氏が発案し総会で議決されたけれども、その後の動き、つまり各都道府県の臨床心理士会宛に「情報提供のお願い」をしているというのは菊池氏の独断である…ということですかね。だとすると当然、この文章に書かれている詳細は菊池氏の考えに基づいているということでしょうね。

もちろん、コメントをくださった“とりんどる”さんは匿名ですし、書かれている内容が全くのデタラメである可能性は否定できません。その可能性を踏まえた上で本日の本題に入りましょうか。

奈良県臨床心理士会のウェブサイト上の例の削除された文章に関するコメントの続きです。

元文章は既に閲覧できない状態になっていますので、Googleのキャッシュを見ていただくか、あるいは昨日のエントリ内にアップしてあるスクリーンショットをご覧ください。

では本文引用しながらいきます。

代議員決議では心理職(仮称心理師)推進について、日本臨床心理士資格認定協会や臨床心理士養成大学院協議会と調整することになっていたはずですが、少しも話し合いがついていません。むしろ、臨床心理士養成大学院協議会が臨床心理士を国家資格化することを決議し、これについて日本臨床心理士会に協力を求めたのに対して、日本臨床心理士会がこれに同意できないと回答しています。日本臨床心理士会はいよいよ臨床心理士資格を完全に放棄するというわけです。

これを読む限りでは(そして12/05/15のエントリ、日本臨床心理士養成大学院協議会が目指しているのはいまだに「臨床心理士の国家資格化」らしい件で言及した一連の流れを見る限りでは)、心理職(仮称心理師)の国家資格創設推進についての調整ができないのは、臨大協が「臨床心理士の国家資格化」なんてことを言っているからなんじゃないですか?

名称独占の資格である「心理師」ができることで「臨床心理士」を名乗ることができなくなるというのが本当であれば、それは私個人としても困る部分はありますが、ここまで読んでもやはり「なぜ心理師が出来ると臨床心理士と名乗れなくなるのか?」についての説明は一切ありません。本気でわからないんですが…なんで名乗れなくなるんでしょ?まずはそこをはっきりさせてから論を展開すべきなのではないでしょうか。

4月29日の資格法制化問題担当者会議で日本臨床心理士会からも説明されていることですが、今回の心理職(仮称「心理師」)の要望に、文部科学省がスクールカウンセラー事業などの兼ね合いで、たいへんな困惑を示しているという情報があります。

これはとても興味深い情報ですね。この情報については、少なくとも私が知る限りではどこにも公開されていないのではないかと思うのですが、どこかにソースはありますか?「自分が聞いたから」じゃなくて、文章でも音声でもいいですけど、閲覧可能なもので。…あるいはこれって公開していい情報なんでしょうか?オフレコっぽい臭いもプンプンするんですが。

なにしろ、スクールカウンセラー事業を優先的に委託している先の当の臨床心理士の職能団体が、心理の団体のすべてを含めて国家資格を作ってくれとおおやけに言い始めたのです。しかも、その場合の資格の内容も固まってもいなければ、その資格による資質の保証も何もありません。にもかかわらず、国会議員への陳情まで始めています。臨床心理士の資質を保証しなければならない職能団体が、臨床心理士の資格を放棄したわけです。文部科学省から見てこれほど無責任な話はないと思われます。

その心理の団体(細かいツッコミですけど「すべて」ではないですよね)の中でも特に大きな臨床心理士関連団体の中で議論がまとまっていないのに、資格の内容を固めたりはできないでしょうし、そうなってくると資質の保証だってできるはずがないじゃないですか。

「臨床心理士の資質を保証しなければならない」とありますが、真に保証されなければならないのは「利用者に提供されるサービスの質」なのではないでしょうか?それが保たれる、あるいは向上するのであれば、例え「臨床心理士」から他の何かに看板がかけかわったとしても何の問題もないのでは?

もしこれまで多く輩出された臨床心理士の資質の高さに自信があるのであれば、その養成のノウハウを新しい資格を創設する中で活用していくことこそが前向きな姿勢だと言えるでしょう。そして、新しい資格が出来ることで「臨床心理士が名乗れなくなる」可能性があり、それによって提供されるサービスの質が低下する可能性があるのだとしたら、注力すべきは新しい資格の創設を妨げることではなく、「臨床心理士を名乗れなくなる」のを防ぐことなのではないでしょうか。

…まあ、なぜ「心理師」ができることで「臨床心理士を名乗れなくなる」のかは私には全くわかりませんので、少なくとも私はどうすればそれが防ぐことができるかわからないんですけどね。偉い先生方なら何かいい案が出せるのではないでしょうか?

スクールカウンセラー任用の推薦なども、もう臨床心理士会に任せておくわけにはいかないということになるでしょう。そして、実際に「心理師」の資格ができたとして、その場合にまだスクールカウンセラーの事業があるとしたら、ますます現行の臨床心理士以外の者がスクールカウンセラーに任用され、時給なども下がるであろうことだけは誰が考えても容易に予想がつきます。

これは意訳すると「臨床心理士の既得権益を守れ!」ということでいいですか?私にはそうとしか読めないのですが、他の解釈があるのなら教えてください。

繰り返しになりますが、提供できるサービスの質が保たれるのであれば、「臨床心理士」の看板が他の何かにかけ変わったっていいじゃないですか。そして「時給が下がる」ことでサービスの質が保たれなくなるというのであれば、その論拠を明確にした上で時給を現行の水準に保てるような方向で努力すればいいのでは?

あと、この文章では学校臨床の領域の問題にしか触れられていませんが、医療の領域に関してはいかがでしょうか?国家資格化の中でもっとも重要な要素の一つが、医療現場における臨床心理業務に保険点数の裏づけができるということだと思います(私の認識が間違っていたらどなたかご指摘ください)。それにより医療現場の心理職の待遇が大幅に改善するとか地位が向上するとか、あるいは就職口が大きく増えるとか、そんなことは全くないと個人的には思っていますが、肩身の狭さは若干解消されるかもしれませんし、サービスの向上が望める部分もあるかと思います。そういったことを無視して、学校臨床における既得権益を守ることのみを重視するというのはどうなんでしょうか?鳥取県、あるいは奈良県の医療現場で働く臨床心理士の方々はそれでいいのでしょうか?

もちろん、諸先輩方が臨床心理士の資格を創り、育て、守ってこられたその努力というのは伝え聞く限りでしかないですが私なりに理解しているつもりです。それを考えれば「臨床心理士」という看板を守りたいという気持ちもわからないではありません。

しかし、諸先輩方が尽力されてきた目的というのは、「臨床心理士」という資格そのものではなく、それによって提供されるサービスの向上でしょう。繰り返しになってしまいますが、それならば目指すのは名前を残すことではなく、その精神であったりノウハウであったりを残していくことなのではないかと思います。

そんなこんなで今回も長くなってしまいましたので、とりあえずここまで。

次回はお知らせ[心理士の国家資格化と日本臨床心理士会の動きについて]|奈良県臨床心理士会の文章に関しても合わせてコメントさせていただきたいと思います。

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