臨床心理学

病院臨床残酷物語

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臨床心理士デスマさんが久しぶりにエントリをアップした!と思ったら、かなりテンションの高い内容(語り口はいつもの感じですけどね)だったので反応してみたいと思います。
対象エントリ:医療領域での生き残り方
デスマさんは心理職が医療領域で生き残るための策をいくつか挙げております。

■勤務開始時間の20分前には到着
 掃除機をかけるとか、ぞうきんがけとかは、
 たぶん新入りであるあなたの仕事です。

えーと…規定の業務開始時間の2時間以上前に職場に到着している私が来ましたよ。そんなバカのことはおいといて、心理職に限らず「新人」としては普通の姿勢ですよね。

■声の大きさに注意
 防音の効いた相談室、といった構造はまずないです。
 壁の厚さや建築構造などを見て、
 必要十分な範囲で声が届くように。
 常に自分のボリュームには意識的であること。
 プライバシーや病院の評判にもかかわることなので、特に注意。

私も外来で面接していると他の医師の診察の声が聞こえてくることがありますが…色んな方がいますよねぇ(患者さんも治療者も)。と考えると、やはり自分の声も外に聞こえているというわけで、これは意識せざるを得ないですね。
逆の見方をすると、最近は意図的にドアを開けて面接するところも少なくないと思います。密室だと、そりゃあ色んなことがありますから(ほんとに恐い話も聞きますよ)。

■報告は30秒以内で
 医師や他職種への報告事項は、長くても30秒以内で。
 つまり、常に常に制限時間付きの留守電に録音するようなつもりで。
 最初のうちは、口に出す前に頭で原稿を作っておかないと、たぶんできません。
 集中力を高めるときです。
 書置きなら、大きくてもハガキの半分ぐらいまで。
 それ以上だと読んでもらえないと考えてください。

「話は手短に」「要点はしっかり伝える」ってのも、やはり医療領域に限らず忙しい職場では必須の条件なのではないかと思いますが…。

■動作は速く
 最大限の速さで。疲れたらそのときに考えるべし。
 少なくとも出し惜しみをしていると、すぐにクビを切られます。
 飲み屋やコンビニ(ただし忙しい店で)のアルバイトなどの経験も、
 役に立つと思います。
 あるいは体育会系の部活とか。基本的にはそういうノリです。
 トイレの回数もできるだけ少なくあるべし。
 あなたの膀胱の容量にもよりますが、
 お昼だからといって、500mlのペットボトルの飲み物を全部飲んでしまうと、
 あとがたいへんです。

うーん…正直言ってこの「すぐにクビを切られます」という感覚には同意できないのですよ。これは私が恵まれた職場にいるからだとは思いますが…でも、そんなことを言ったら私の周りにいる同じ地域の心理職はほとんど辞めなきゃいけないと思うんですけどねぇ…。
こういう「医療領域観」を抱かざるを得なかったデスマさんは、はっきり言ってかわいそうだと思いますし、そういう経緯があってデスマさんの「資格観」「国家資格化観」が形成されたのだなぁとは思います。
んでもこの話はどこまで一般化できるものなのでしょうか?
心構えとしては必要なのかもしれないですけど、こんなビクビクしてたら良い仕事なんて出来ないじゃないすか。もし医師が心理職の必要性を認めている職場であれば、心理職(ある程度能力があるという前提ですが…)にこういう思いをさせるのは、業務遂行上プラスにならないでしょうし、そこそこ頭が良くて能力のある医師であれば、その辺りは理解できると思うんだけどなぁ…。
ただ、そういう本質的なところに目が向かない、プライドだったりとかメンツだったりとかだけをやたらと重視する医師がいるというのもまた事実だとは思います。その辺り、(言い方は悪いですが)うまく態度を使い分けをするのは必要だし、それやっていかないとキツイですよね。

■同じことを2度言われない
 忘れそうなら、折をみて(こっそり)メモをとってください。
 ポケットに入るような程度のものを。

これも、やっぱり普通の職場では当たり前のことですね。

■どなられる等は当たり前
 どなられる、呼び捨てにされる、「早くしろ」と言われる、等は当たり前です。
 ここは「そういう場所」なのです。
 今は大学の先生等になっている心理職でも、
 医療領域に勤めたことのある人なら、まず間違いなくそういう思いをしています。

これもねぇ…そういう同僚医師が近くにいるのは気の毒だなぁと思いますが、もしそういう上司がいたとしたら若手医師も同じような思いはするだろうし、そんなことを言ったら厳しい上司のいる職場ってのは他にも色々あるでしょうからねぇ。

■あいさつはすること
 しかし返事はないと思ってください。
 こちらが「おはようございます」と言っても、返事はないことが多いです(特に医師)。
 「そういう場所」ですから。

これは社会人としての常識ですね…というか子どもの頃から言われていることであって、今さらあいさつが出来ないとかってのは人としていかがなものかと。

■資格問題については無難な答えを
 資格問題について聞かれることは、まずないとは思います。
 医師は、個々の心理職がどういう考えをもっていようと、
 「役に立てば」それでいいと考える人が多いようです。(ある意味合理主義。)
 問題は、先輩の心理職かもしれないです。
 もし聞かれたら、「まずは患者さんのことだけを考えています」とか、
 そのぐらいのことを言っておくべし。
 権力関係が対等ではないのだから、
 意見の交換や討論ができるとは考えないこと。
 そもそもそういう場所ではないです。別の文脈で。

私、たまに同僚の医師から資格問題について質問されますよ。それなりに関心は持ってくださっているようで、ありがたいことだと思いますしやはり私は恵まれているのだと思います。ただ、議論をしても仕方がないと思うんで大したことは言いませんが…
先輩心理職から聞かれた場合には…どうでしょうね?私はそういうシチュエーションになったことはありませんが、やはり無難なことを言ってお茶を濁すでしょうねぇ。やはり議論してもプラスにはなりませんし、対等な立場で議論するためにこういうブログが存在しているわけですし。
医師・心理職に関わらず、こういう議論をリアルでするとしたら、やはりかなり気心知れた人としかしないですよね。

■医師の診察への陪席は貴重な機会
 そばに立っているだけですが、貴重な機会です。
 他領域に就職したらもうありません。
 やがて他の職場で仕事をするにしても、
 医師が診断を確定させるプロセスに立ち会った経験は貴重です。
 安い給料でどなられながら働くことへの、
 実は一番の報酬といえるでしょう。

これは全くその通り。私は院生時代に散々陪席させてもらいましたが、ほんと良い経験をしたと思います。今の実習生にも診察の陪席は是非ともしてもらいたいと思ってます。

■異性のスタッフへの返答は、ややそっけなく
 例えば実習生の方などの場合、うら若い看護師さんから、
 「どちらの大学から?」「いつまでいるの?」などと聞かれることがあります。
 にこやかに返答してはいけません。
 申し訳なさそうに最低限の返事をしてください。
 少なくとも1分以内には、何か理由をつけてでもいいから、
 その場を立ち去るように。
 自分はそんなに性的魅力はないから\\\、とおっしゃるかもしれませんが、
 管理する側からみれば、たとえ1%でも、
 「職場恋愛」に発展しそうな状況というのは、好ましくありません。
 横で師長(以前の呼び名だと婦長)さんが、にらみを利かせているかもしれませんよ。

師長さんを口説きそうな勢いの私ですが、何か?
ごめんなさい。嘘です。さすがに師長さんを口説いたりはしません…けど、仲良くできるなら(できるもんなら)してもいいと思うんですけどね。もちろん、実習生だったりペーペーがそんなことをしているのは言語道断ですし、職場恋愛も御法度(基本的には)ですが…職場の雰囲気が悪いよりは良い方がそりゃあいいでしょう。
なーんつって、実習生の頃、病棟で看護師さんに捕まって休憩時間に一緒にお茶を飲んだりしてた私が言ってもあまり説得力はないんですが。
これはもうケースバイケースでしょう。場の雰囲気というか文脈を読む能力が重要かと。

■医師にどう思われるかに注意
 医師はある意味自己中心的です。
 こちらに、やむにやまれない事情や状況があっても、
 自分の目からみておかしいと思えば、いきなり怒り出します。
 弁明の機会はおそらく与えられませんし、
 心理職のように内省することもあまりありません。
 そういう「落とし穴」に、はまらないことが大事です。
 常に、「医師の目に映る自分」をもモニターしている必要があります。

なんて言うと、まるで心理職がみんな「内省する人」みたいですけど、そういうわけじゃないですよね?(というのはデスマさんもご存じかと思いますが…)
医師も基本的には自己中心的な人が多いですが、みんな自己中心的なわけじゃないです。
結局、相手がどういう人間なのか、社会的な文脈の中でアセスメントして、個々に対応する(かつあからさまに態度は変えない)ということが必要であり、これはやはり普通の職場でもうまくやろうと思ったら必要な能力ですよねぇ。

■看護師にどう思われるかにも注意
 医師はもちろんのこと、看護師さんにどう思われているかは重要です。
 万一悪意をもたれるようなことがあれば、
 近い将来、間違いなくいづらくなります。
 医師とともに仕事をする時間が長く、ある意味「重役秘書」みたいなもんですから。
 大奥ですよ、大奥。

私的には実は医師との関係よりもこちらの方が大事だったりするんじゃないかと思ってますよ。立場は全く違いますが、同じコメディカル同士わかりあえる(ような気がする)部分は多々あるし、場合によっては医師を仮想敵(という言い方は悪いですがまあ便宜的に)として同盟を組んだ方が動きやすくなることもあるかと。
そういう意味で私は男で良かったなぁと思うことがありますよ。マジで。

■言われないかもしれないけれど
 上記のようなことは、病院によっては言われないかもしれませんが、
 意に介さないでいると、言われないだけで、
 ひっそりとあなたに対する評価が下がっている可能性はあります。

はい。肝に銘じさせていただきます。うーん。恐いなぁ…。

■自分は心理職だというアイデンティティを強くもつ
 気をたしかに!
 もしかしたら、カウンセリングも心理検査もデイケアも
 やらせてもらえないかもしれません。
 それでもあなたは心理職なのです。
 そういうときこそ、自分は心理職なのだ、という気持ちを、
 たしかに強くもってください。
 患者さんと接するときのまなざし、ちょっとした声かけ、
 その1秒1秒、1つ1つに、心理職としてのやりがいと誇りと意地を!
 私も、「自分は心理職なのだ!」といちばん強く思ったのは、
 もっとも逆境にあった医療領域在職のときです。

これは必要ですね。ほんとこれがないと生きていけないかもしれません。
不幸にもこういう職場に入ってしまった場合は「俺の能力を無駄にしやがって。馬鹿な奴らだぜ」と思いながら、研修に出たり研究を進めたりして自分の能力を磨くことに重点を置いた方がいいのかも。そういう妄想力って必要ですよね。

■いつか何とかなる、という妄想をもつ能力
 上記のようなことに留意しつつ精一杯がんばっていれば、
 いつか何とかなると思います。
 誰かがひっそりとあなたの努力をみてくれているかもしれない。
 \\\って、実際はそんなことないのかもしれませんが、
 そのぐらいの妄想をもてる能力は大事です。
 
 やがていつか、面接構造があって、
 50分程度かけてクライエントさんの話を聞くことができるときがきたら、
 そのときは無限の広がりを感じると思います、きっと。

で、この「妄想力」の話ですね。自分のやってきたこと、そしてこれからやることに自信があれば(そしてそれが確固たる能力に裏づけられていれば)自ずと道は拓けるはずだと思いますよ。
さて、これらデスマさんが挙げられた条件をまとめてみてみると、結局その多くは
(ある程度能力のある)社会人であれば割と普通のこと
だったりするのではないかと思うのですよ。むしろそれが出来ない心理職がおかしいし、そういう人間はどこに行ったってうまくいかないと思うのですよ。
そういう人間は医者になるくらいしか生きていく道はないのではないかと(医者じゃなきゃ生きていけない人間ってのは医師の中には多いですし、それは私の知り合いの医師数名も認めていることです)。
この辺までいいんですが、問題はこれですよ↓

医療領域の心理職ってゲリラみたいなもんだと思うんですよね。
医師を頂点とした体育会系の組織で、
西洋医学をもとにした治療を目的としている、そういう場所で、
どう考えたって、個々の尊重や成長の促進といったことを、
大手を振ってやれるはずがない。
患者さんが、症状のことを話すのはいいけど、
ちょっとでも自分の人生のいきづまり感などについて話すと、
(それが、まま症状に関係あるとしても)
もう「帰ってもらいなさい」になるわけですから。
まあ、こっそりやるわけです。
そもそも、医学の原理と心理臨床の原理が、調和して折り合うことはないと思います。
両者は、せめぎあっていく種類のものだと思います。
「国家資格化」したところで、そのせめぎあいがなくなることはないと思うのですよね。
その組織の本来の主目的とは違ったことを、
横糸に織り込んでいくのが、我々の仕事のはずです。

こっそりですか…それは社会人としてマズイのでは?
もしそれがこっそりとしかできない職場なのであれば、それは職場としてマズイでしょうし、もしその職場を辞めたら他にどこにも行き場がないというのであれば、それはその心理職に問題があるのではないかと。
・心理職にそれなりの能力があれば、いつかは職場にそれを認めさせることが出来るだろうし、それを認めさせられないのはその心理職の能力の問題である
・心理職に能力があるのにそれを認められない、認めようとしないのは、職場に問題がある。そんな職場は辞めちまえ!
…ってのは私の理想論・妄言でしかないのでしょうか?
なんか色々書いてしまいましたが、今の時点ではそんなに間違ったことを言っているつもりはありません。デスマさん他皆様からのご意見をお待ちしております。

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