心理・精神医学本

鶴光代編『発達障害児への心理的援助』(金剛出版)

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発達障害児への心理的援助 発達障害児への心理的援助
鶴 光代

金剛出版 2008-09
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これはなかなかすごい本なのではないかと思いますよ。

「特別支援教育」の開始,「発達障害者支援法」の施行,「子どもの心の診療医」養成,あるいは「子どもの心の診療医専門研修会」の開始にみられるように,「発達障害」への社会的認知は,ここ10年にもならない間に劇的な転換期を迎えている。『臨床心理学』誌上で2006年から2008年まで続けられた全 14回の連載をまとめた本書は,この発達障害を巡る転換を,そのすべての論文の細部にまで反映させている。

本書は,発達障害児が抱えるLD・ADHD,自傷,非行・犯罪などの問題に対し,アセスメント,保護者支援,自立支援,スクールカウンセリング,学校巡回相談支援,臨床動作法,療育センターの実践,サポートグループといった多様な観点からアプローチし,その解決の糸口へと導いてゆく。発達障害児の希望の実現のために,同領域の第一人者の執筆陣が率直な情報公開と客観的な仮説検証にもとづく理論と方法を提供し,その心理的援助の可能性を探る。


はい。かなり豪華な執筆陣です。
個人的には「第2章 発達障害の医学的概論(1)――軽くとも生き難い子ら:田中康雄」「第4章 自閉症を生きる:乾 吉佑」「第7章 学校場面と軽度発達障害:倉光 修」「第10章 療育センターでの発達障害児への援助の実際:吉川 徹」「第12章 「発達障害」と非行・犯罪:浜田寿美男」辺りが気になります。
そして、編者の鶴氏というとやっぱり臨床動作法なわけですが(そして実際「第9章 自傷行動を伴う自閉症青年への臨床動作法」を担当されております)、そうした個々の技法や立場を超えた包括的な理解を目指すという方向性が、出版社のページにある「あとがき」よりを読むと伝わってきますよ。

こうした転換が生み出されてきたのは,発達障害のある子どもや大人,家族,彼らを支える人々の強いニーズと働きかけがあったがゆえといえる。これらの人たちの力が,今では,彼らに関わる専門職の人々だけではなく,広く社会の人々をして,これまでになく前向きに発達障害に向き合わせているのである。こうした流れがさらに進展していくならば,発達障害のある子どもが二次的障害といわれていることがらに苦しむことは減り,自身を活かし成長させていきやすくなるだろうと思い,それを祈りたい。

(中略)

筆者が,自閉症の子どもと初めて出会ったのは,1967年(昭和42年)に,九州大学医学部小児科で行われていたプレイセラピーを手伝うようになったときであった。鷲見の報告から15年が経っていたが,当時の自閉症理解は,乳幼児期における親の愛情不足や育て方にその原因があるとする見方が中心的であった。たとえば,親の特徴として,両親とも高学歴で豊かな経済力を持ち,その性格は客観的で理性的ということが挙げられ,なかでも,母親の冷静さ・冷たさが問題とされることが多かった。

筆者も,その例に漏れず,そういう理解を前提に母親と接していた。しかし,目の前の母親からは,理解しがたいわが子の行動に苦悩しながらも誰よりも可愛いと感じている様子や,全てを犠牲にしても何とか治してやりたいという熱意が伝わることがあり,原因とされている親の特徴とのギャップに戸惑うことがあった。戸惑いながらも,当時の主流の理論に沿って,子どもが自閉症になった原因と思われることを,目の前の親に探していたのである。

1970年代に入って,日本でも,イギリスの児童精神科医マイケル・ラターらの主張する脳機能障害という考え方が認められるようになり,自閉症を発達障害の一つとする考え方へと変わっていった。そして,現在は,脳機能の障害とともに脳の器質性障害も指摘され,先天的な障害と捉える見方も出てきている。

自閉症の子ども理解の変遷に見られるように,今では検証不足で偏った理論づけであったといえることが,過去には真剣に討議され実践に移されていたのである。ところで,現在の我々の,あるいはそれぞれの理論と援助法は,10年後にはどう展開しているだろうか。将来的にも役立ちうるには,心理的援助に携わる者が,発達障害のある子どもや大人,家族,関係者に対して,また社会に向けて,率直に情報公開をして客観的な仮説検証の作業を進めていくことが必要である。本書は,そうした意図のもとで,発達障害がある子どもの心理的援助について,その視点,理論,方法等の情報を提供している。発達障害がある子どもの援助のために,只今現在大いに役立つとともに,今後の発展にも寄与しうることを願ってやまない。

以前、当ブログのコメント欄で書き込みしていただいたことがありましたが(多分Anonymousな方だったと思います)、「流行り」ではありますがまだまだこの分野ってデータの蓄積が進んでいる最中であり、援助法もこれから構築されていく分野なのですよね。で、一つ一つの論文自体はそれほど長大な内容ではありませんが、エッセンスは充分に伝えているのではないかと思うのですよ(この本自体はまだ購入しておりませんが、雑誌『臨床心理学』の連載記事はちょこちょこ読んでおりました)。
自分の場合はそもそも子どもに関わる機会が少ないのですが、だからこそ知っておかねばならないようにも思います。割となんでもかんでも「発達障害である」とアセスメントしてしまう心理職が結構目につく昨今だからこそ、なおさらなのではないかと。
そんなわけで、とりあえずは「幅広く知っておけ」ってことになるのですがね。ということで、全ての心理職にお勧めしたい一冊でございます。
・・・・・・・・・・
ちなみに、金剛出版で出している『臨床心理学』の連載をまとめた書籍って、良いのが多いですよね。
これもそうだし。

方法としての行動療法 方法としての行動療法
山上 敏子

金剛出版 2007-07
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上手いなあと思うわけなのです。

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