臨床心理学

心理学系大学院の選び方 – 選択の際の考え方

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大学6

新大学生〜大学3年生向けシリーズの第6弾。過去ログはこちらです。

心理学系大学院への進学を考える大学生の皆さんへー学部時代をどう過ごしますか? その1(13/04/12)
心理学系大学院への進学を考える大学生の皆さんへー学部時代をどう過ごしますか? その2(13/04/15)
心理学系大学院への進学を考える大学生の皆さんへー学部時代をどう過ごしますか? その3(13/04/15)
大学院進学?一般企業に就職?(13/04/18)
心理学系大学院の選び方 – 選択のための情報収集の方法(13/04/21)

昨日は心理系大学院への進学を考える人向けに「選択のための情報収集の方法」について書いてみました。

本日はその続き、心理系大学の「選択の際の考え方」つまり何をポイントとして選択するのかについて、それを選択理由とした場合の長所と短所を取り上げてみたいと思います。

1. 自分の関心領域に近い研究をしている教員がいる大学院を選ぶ

大学院というのは基本的には研究をするための場です。ですから、自分の関心領域に近い研究をしている教員がいる大学院を選び、その教員に指導してもらうというのが王道だと思います。

ただし、自分の関心領域の研究が出来たとして、その後の就職がどうなるかはわかりません。

そのため修士課程(博士課程)修了後の進路については事前に調べておく必要があります(その方法については昨日のエントリで)。これまでその研究室の修了生の進路がどうなっているか、大まかにでも実績がわかっていれば、自分の進路についてもイメージがつかみやすいでしょう。

また、研究領域が近いからと言って自分との相性がどうかはわかりません。この辺りに関しては指導を受けてみないと実際のところはわからないので、なかなか難しいところでもあるかと思います。

長所:
自分のやりたい研究ができる

短所:
卒後の進路については不安が残る

2. 卒後の進路が自分の進みたい方向に行けそうな大学院を選ぶ

これもまた王道というか当然と言えば当然の話ですよね。研究者志望であっても、臨床心理士指定大学院であってもほぼ同じことが言えるかと思います。研究者としては、その大学院(研究室)の先輩がどの程度教員として就職できているか、就職先はどこの大学か。そして臨床家としては、どの程度の人数がどんな職種に就いているか…ということですね。

進路を重視するというのは、言い換えれば「コネ」を重視するといういうことになります。

「コネ」という言い方にはネガティブなイメージがつきまといがちですが、「コネ」というのは「コネクション」つまり人との繋がり、人脈のことです。研究の業績であったり、あるいはある程度の能力が認められた上で、コネが使える状況ならばそれを利用するに越したことはないでしょう。

学生を紹介する側にとってはある程度その責任を負うからには、「コネ」だけしかないおかしな人材を紹介なんてできないでしょうし、採用する側としても信頼できる筋からの紹介であればある程度の安心感があります。

そして、教員単位であったり、あるいは研究室、大学院単位であったり、色々なレベルで他の機関とは繋がっている、つまり「コネ」があるはずであり、それは既存の修了生の進路とリンクしているはずです。

ただ、コネ重視だと、今度は自分がやりたいような研究が出来ないということもあるかしれません…どうだろうか?別に自分の研究領域と多少離れていたとしても(全く逆ベクトルだったりするとマズいでしょうけれども)、まともな教員であれば学生の研究指導は出来るような気がします。

学生が自分の研究をおろそかにしなければいいだけの話かもしれません。

結局「コネ」があったとしても、それなりに実力を認めてもらえなければ有効に「コネ」を活用できない可能性もあります。

長所:
修了後の進路がイメージしやすい

短所:
結局は実力ということになる(短所ではないかも)
研究がおろそかになってしまうと悲惨(これはどんな選択をしてもそうかも)

研究者志望であればこの2点に関してバランスの取れた進学先を選ぶということになるかと思います。ですので、以下は臨床家を目指す場合のお話。

3. 臨床のトレーニングを重視している大学院を選ぶ

臨床心理士を目指す学生にとって「臨床のトレーニングを重視している大学院」というのは非常に魅力的に見えることと思います。実際、将来現場に出た際に、そうしたトレーニングは無駄にならないとは思います。

…しかし、修士課程2年間で果たしてどの程度のことが出来るのでしょうか?

もちろん、私も最低限のトレーニングは必要だと思いますし、実践の他に身につけねばならない知識も数多くあると思います。ただし、2年間で修士課程を終えようと思った場合、学外実習などに加えて修士論文を書かねばならないのですよ。

2年間という短い時間(実際に在籍した人ならわかるでしょう。本当に短いです)で、しっかりとトレーニングを受けてその上、ある程度のクオリティ(あくまでも修論レベルで)の研究をする…それが出来るのは相当高い能力を持った一握りの学生だけではないかと思います。

修士課程の間は臨床心理士指定大学院として必要な単位取得をした上で、あとはある程度研究に専念できる…というのが私個人としての理想です。

臨床実践のトレーニングを受ける機会は現場に出てからも色々とありますが(というかないと仕事ができないですが)、研究をまとめるトレーニングというのは大学院を出てからだと非常に難しいと思います。

長所:
現場に出る前にある程度の臨床能力を身につけた気になれるかもしれない

短所:
研究面については十分にトレーニングされない可能性がある

4. 専門職大学院を選ぶ

これについて言及すると、色々と反論される方もいるかもしれません。特に専門職大学院の関係者の皆様からは。これはあくまでも私個人の意見ですので「そういう考え方もあるのだ」程度に思っていただければありがたいです。

専門職大学院は「3. 臨床のトレーニングを重視している大学院を選ぶ」をさらに押し進めた形になりますね。

公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会のサイトより引用してみましょう。

専門職大学院は、指定大学院の基本モデルともなる臨床心理士養成に特化した44単位以上(指定大学院は修士論文に加え26単位以上)を履修し、実践活動の実習を強く求め、専任教員スタッフの充実が求められています。
専門職大学院修了者は、第1種指定大学院と同様に、修了年度の直近に実施される臨床心理士資格試験を受験することができます。加えて、専門職大学院修了の受験者は、一次試験に実施される小論文は免除されることになっています。

つまり専門職大学院では必要単位が増える一方で、修士論文は課されないこととなります。

確かにそれにより格段に学生の負担は減るでしょうし、より充実した臨床実践のトレーニングが可能になることでしょう。

ただ、それでも2年間という短い期間で、果たしてどの程度の訓練ができるのかと私は疑問に思います。

せっかく「高度専門職業人」を養成したとしても、その技術がその人の代で途絶えてしまうことはとてももったいないのではないでしょうか。次の代にその人が得た知見を伝えていくためには、どうしても研究の視点、研究の方法論が必要になってくるはずです。

いつかまた詳しく述べますが、臨床心理士の職務の重要な一側面として「臨床心理学的調査・研究」が掲げられているのですが、専門職大学院というのは、そうした面が軽視されてしまうではないかと思います。

今後、臨床心理士の専門職大学院も増えていくかもしれません。その課程を修了した人々がどんな臨床家になっていくのか、色々な意味で楽しみにしていきたいと思います。

長所:
臨床のトレーニングに専念できる

短所:
研究のトレーニングがほとんどできない

5. 実家の近くにある大学院を選ぶ

これ、実は意外にいいのではないかと思います。

それぞれの家庭の事情はあるかと思いますが、少なくとも実家から通うことができれば、一人暮らしをするのに必要な経済的・時間的・体力的コスト等が大幅に節約できるはずです。「いい年して親のすねをかじって…」という状態になってしまうかもしれませんが、かじれるすねがあるというのは幸せなことです。いつかたくさん恩返しして差し上げましょう。

さらに、もし実家の近くで就職できればそれはそれで色々助かるかもしれません。

若いうちは当然キャリアもないですし、収入面でもなかなか苦しい状況が続くはずです。そんな中で、実家から通える範囲で就職できれば、将来キャリアアップするための下地作りが落ち着いて出来るのではないでしょうか?

そして地方大学だったりすると、近隣の臨床機関との繋がりも少なからずあるのではないかと思います。そういう意味では「コネ」も活用できる可能性があります。

ただし、実際にその大学院の中身がどうなのかという辺りはしっかり情報収集しないと運任せになってしまうかもしれません。そのため、「実家に近いから」という理由だけで選んでしまうのは地雷を踏んでしまう可能性も否定できません。

長所:
経済的・時間的・体力的コストの大幅な節約が可能
コネも活用できるかも

短所:
研究内容であったり、進路については制限されてしまう可能性も
慎重な情報収集が他の選択肢よりも大変かも

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以上、私なりに何をポイントとして大学院を選択するのかについてまとめてみました。

異論・反論のある方もいらっしゃると思います。あくまでもこうした意見は「参考程度」のものとして、皆さん自身の頭で悩んで慎重な進路決定をされると良いかと思います。

微力ではありますが、皆様のお力になれれば幸いです。

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