先日来、公認心理師法案をめぐり心理職の国家資格創設をめぐる議論が繰り広げられてきたわけなのですが、伝え聞く情報は全て「非公式」のものであり関連団体からの公式情報の公開が待たれておりました(少なくとも私の中では)。
本日、一般社団法人 日本臨床心理士会が、Webサイト上に『資格問題の諸情報・電子版速報 No.15』を掲載。いやー、ようやく本格的な議論が開始できます。
そんなわけで、本日はTwitterで予告した内容を変更し、まずは公開された法案要綱骨子(案)について見ていきたいと思います。
ちなみに『資格問題の諸情報・電子版速報 No.15』は会員限定コンテンツのはずなのですが、ID・パスワード無しでも閲覧できるんでリンク公表しても問題ないですよね?(問題がありましたらご指摘ください)
・資格問題の諸情報・電子版速報 No.15(pdf注意)
さて…
第一 総則
一 目的
この法律は、公認心理師の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって国民の心の健康の確保に寄与することを目的とすること。
ここは問題ないですね。
二 定義
この法律において「公認心理師」とは、第二の二1の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいうこと。
① 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
② 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、及び助言、指導その他の援助を行うこと。
③ 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、及び助言、指導その他の援助を行うこと。
④ 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
これもまあ、大丈夫…ですよね。
三 欠格事由
次のいずれかに該当する者は、公認心理師となることができない。
① 成年被後見人又は被保佐人
② 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しない者
③ この法律の規定その他保健医療、福祉又は教育に関する法律の規定であって政令で定めるものにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しない者
④ 第三の二1②又は2により登録を取り消され、その取消しの日から起算して2年を経過しない者
はい。これも重要。
第二 試験
一 資格
公認心理師試験(以下「試験」という。)に合格した者は、公認心理師となる資格を有すること。二 試験
1 試験は、公認心理師として必要な知識及び技能について、主務大臣が行うこと。
ここまでは問題ないですね。さて、問題は次です。
三 受験資格
試験は、次の各号のいずれかに該当する者でなければ受けることができないこと。
① 学校教育法に基づく大学(短期大学を除く。)及び大学院を卒業した者で、その課程において主務大臣の指定する心理学等に関する科目を修めたもの
② 学校教育法に基づく大学(短期大学を除く。)において主務大臣の指定する心理学等に関する科目を修めて卒業し、かつ、第一の二①から④までに掲げる行為に関わる施設であって主務省令で定めるものにおいて主務省令で定める期間以上の実務の経験を有する者
③ 主務大臣が①及び②に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認めた者
はい。出ました。
受験資格の「大学及び大学院」の問題ですね。
これについては同じ資料の最後にある“『公認心理師法案要綱骨子(案)』(平成26年4月11日付)に関するお願い”でもしっかり触れられてます。
心理士会としては当然「学部4年で基礎心理学を学び、大学院2年で臨床心理学」という三団体要望書(pdf注意)の内容を踏襲しなくてはならないですよね。
あと、こういう意見も…
公認心理師は、「心理学の正規の課程をおさめて」とならずに「心理学等の科目をおさめたもの」になったということは、一定数の科目の単位の認定であって、心理学部等の専門的な課程を出なくてもいいということではないか。
— サイコロジスト KJ (@psychologist_kj) 2014, 4月 25
この辺りは、心理学部や心理学科等の専門的な課程を出なくては現実的に満たせないような単位数にすればいいだけでは?もちろん、卒業研究も含めた。仮に法学部でそれをやるような猛者がいたとしたら、それはそれでいいんじゃないかという気も。
さてさて、続きましては…
四 指定試験機関
1 指定
主務大臣は、主務省令で定めるところにより、その指定する者に試験の実施に関する事務を行わせることができること。
これは問題ないですね。そして、この「指定する者」になりたいのが日本心理研修センターである、と。
第三 登録
一 登録
1 公認心理師となる資格を有する者が公認心理師となるには、公認心理師登録簿に、
氏名その他主務省令で定める事項の登録を受けなければならないこと。二 登録の取消し
1 主務大臣は、公認心理師が次のいずれかに該当する場合には、その登録を取り消
さなければならない。
① 第一の三(④を除く。)のいずれかに該当するに至った場合
② 虚偽又は不正の事実に基づいて登録を受けた場合
2 主務大臣は、公認心理師が第四の一1、2又は3②に違反したときは、その登録を取り消し、又は期間を定めて公認心理師の名称の使用の停止を命ずることができること。三 指定登録機関
1 指定
主務大臣は、主務省令で定めるところにより、その指定する者に公認心理師の登録の実施に関する事務を行わせることができること。
これも問題ないっすね。
一番問題なのは次。
第四 義務等
一 義務
1 信用失墜行為の禁止
公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならないこと。
2 秘密保持義務
公認心理師は、正当の理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならないこと。公認心理師でなくなった後においても、同様とすること。
3 関係者との連携等
① 公認心理師は、その業務を行うに当たっては、医師、教員その他の関係者との連携を保たなければならないこと。
② 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならないこと。
4 資質向上の責務
公認心理師は、常に、その業務に関して有する知識及び技能の水準を向上させ、その他その資質の向上を図るよう努めなければならないこと。
来ました。「一 義務」の「3 関係者との連携等」の②。
「公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならないこと。」
やっぱり“『公認心理師法案要綱骨子(案)』(平成26年4月11日付)に関するお願い”で最も強く「お願い」してるのはこの点です。そりゃまあそうだ。
ただ、法律というのは色々難しいものでありまして…この辺り、Twitterでの端行夫さん(@yhashi13)の連続ツイートが参考になります。
@inotti_ele 違うんです。法文は奇怪です。でも向うさんなりに論理があるの。病理と言った方がいいかも。ST法で「診療補助」業務となったのは嚥下訓練と人工内耳の調節という業務だけであとは「指示」下の仕事ではなく主治医がいる時には指導を受けるという事なんです。資格法ではね。続
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
承前 昔のST協会は「医師の指示」を外すことを主張して主業務については外れたのです。(しかし指示つきのおまけをくれた)以後PSWも医師との関係規定は同じです。「指導」というのはほぼ連携と同じです。「連携」という語は、医師への連携義務ということで関係規定とは別についてまわるのです。
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
承前 資格法に指示条項がなくても国家資格ができて医療機関で働けば、医療に責任のある医師に連携しなければならない。ということは指示を受けなければならないのです。で現実にはSTも指示下で働いてるの。それで保険点数はとれるんです。指導になったことの意味は、「汎用」を可能にする事です。
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
承前 つまり福祉や教育や開業でも資格が有効なわけ。嚥下訓練は医師がいる医療機関でないとできない(のだが食事の支援と境界は曖昧)。医師との関係規定はPSWでも同じですね。なんで心理がそれを踏襲しなかったのか知りませんがたぶん「医師の指示」という魔法か病気にかかっていたんでしょう。
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
承前 医師の指示が法文にあろうとなかろうと、医療機関では医師の指示を受けるのは連携規定上当然なのです。だからは資格法から医師の指示は外してください。でもご指導は受けると言っていたほうが整合性があるのです。資格法で指示下になるといろんなことに医師の「責任」が出てくるので厄介なの。
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
承前 医療では医師の指示下でやる資格法にするというのは、診療補助じゃないといくら言っても、私たちがやるのは医師の業務の一環ですとこっち側から言ってるようなものです。ならば非医療機関でも指示が必要だよねということになる。病気だというのは専門家なのにわざわざそれを言うことです。
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
承前 以上を踏まえ今どうするか。案文を見ると主治医がいる時には指示を受ける(医療分野だろうとなかろうと)とあります。その部分はST法PSW法と同じく指導にしてくださいと主張することです。こっちが指示だと言ってたことは医療機関での責任者である医師に連携し指示を受けるということだと
— 端行夫 (@yhashi13) 2014, 4月 24
はい。落としどころはこの辺になるんじゃないかと思うんですが、どうなることやら。
二 名称の使用制限
公認心理師でない者は、公認心理師の名称又は心理師という文字を用いた名称を使用してはならないこと。【P】三 主務大臣及び主務省令等
1 この法律において、主務大臣は文部科学大臣及び厚生労働大臣とし、主務省令は文部科学省令・厚生労働省令とすること。
はい。来ました。「二 名称の使用制限」。
この“公認心理師でない者は、公認心理師の名称又は心理師という文字を用いた名称を使用してはならない”です。“公認心理師の名称又は心理師という文字を用いた”名前はつかっちゃいけないんです。
これ、つまり「臨床心理士」はそのまま残せるってことじゃないでしょうか?
繰り返し言ってますが、私としては仮に受験資格が大卒でもオッケーになった場合でも、現行の臨床心理士資格さえ残せればいいと思っております。
あくまでも「公認心理師の名称」「心理師という文字」であり、「臨床心理士」はどちらにも当てはまらないですよね。この辺りはちょっと希望が見いだせます。
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ということで見てきましたが、Twitter上での評判は散々ですね。
@hiyoccoo どの方面の人たちに対しても、抜け道をほのめかしたり、言い訳できるように作られた資格案にしか見えませんね。
これは、利害関係の調整しつつ、国民の福祉に役立つ資格を作る、というのとは違い。ただ利害関係のある人たちどの人にもいい顔をしようとしてできた案に見えます。
— maco muto (@maco_muto) 2014, 4月 24
これがそのまま法律になったら、なんか想像もつかない。なんか、異様なものができてきつつあるな。
— サイコロジスト KJ (@psychologist_kj) 2014, 4月 25
立法上技術上の制限となると……。単なる医療系団体の利権拡大目的とかなら、どうにかなるだろうとやや楽観していたのですが。今更ですが、二資格一法案はそのあたりを上手くかわそうとしていたように思います。うーん、どうするかな。それでも僕は「ないよりはまし」派ですが……。
— afcp (@afcp_01) 2014, 4月 25
私も基本的には「ないよりはまし」派です。
で、皆さんおっしゃる通り、最大の問題は「医師の指示」であり、この点がどうなるかが鍵なのではないかと思います。多分「医師の指示」のまま通っちゃうと色々めんどくさいことになるから、「指導」になるんじゃないかと思うんですけどね。
とりあえず今のところはそんな感じで。
04/25 21:05 追記:
(*•*) gurikoさん(@guriko_)がTogetterでまとめてくださっております。そちらもご覧くださいませ。