PC・インターネット 臨床心理学

夜回り2.0の謝金「ひとり最大月額5万円程度」は高いか?安いか? @OVA0714

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インターネットは自殺を防げるか?表紙

14/08/05のエントリ、収益化できない事業に臨床心理士が参加することで「やりがい搾取」の犠牲になる危険性について @OVA0714について、和光大学の末木新氏がご自身のブログで言及してくださいました。

精神科周りの支援者の賃金はいくらが妥当なのか?自殺サイト:自殺・臨床心理学 (和光大末木研ブログ)

ありがとうございます。

ネット上の心理士の良心(褒めすぎ?)ことロテ職人さん

なんておっしゃってくださいますが…はい。褒めすぎです。私なんぞネット弁慶のネットチンピラくらいが妥当なところです(卑下しすぎ)。

それはともかく、何か私が言いたかったこととズレてしまっている気がするのです。それもひとえに私の文章の下手さというか、私自身、考えながら前回のエントリを書いていった結果、だんだん考えが拡散してしまったことが原因だと思います。

そんなわけですので、改めて自分の中でまとめていくことも含めて、返信とさせていただきたく存じます。

夜回り2.0とは

当ブログでは何度も取り上げさせていただいておりますが、初めてこられた方のためにまずは「夜回り2.0」とは何か?という説明を簡単に。

夜回り2.0はNPO法人OVA(オーヴァ)を運営するソーシャルワーカーの伊藤次郎(JIRO)さんが考案した、インターネットを用いた自殺防止のための活動です。

OVA
壁と卵 | OVA(オーヴァ)代表 JIROのブログ―夜回り2.0の開発と実践―

詳しい内容については公式サイトの説明がわかりやすいかと思います。

夜回り2.0とは | OVA

夜回り2.0は素晴らしいです。本当に

先日、プロブロガーのイケダハヤト氏がご自身のブログでNPO法人OVAに寄付した件に言及されてました。

検索広告で命を救う「OVA」がNPO法人化!ぼくも10,000円寄付したよ! : まだ東京で消耗してるの?

この方法は大変効率的で、なんと137円で自殺ハイリスク者と繋がることができます。ペットボトル1本以下で、人の命を救う可能性が生まれるというのは凄まじいパフォーマンスです。

夜回り2.0の成果(1/3)
夜回り2.0成果 from Jiro Ito

そう。137円で自殺ハイリスク者とつながることができるのです。こんな安価で自殺ハイリスク者と繋がることが出来る方法を確立されたというのは、本当に素晴らしいことであり、これこそが夜回り2.0の画期的な部分だと思います。

「つながるためのコスト」は低いけど「つなげるためのコスト」は?

しかし、私はずっと気になっていたのです。

夜回り2.0の「つながるためのコスト」は確かに低いです。ただ、その後に「つなげるためのコスト」はどうなのだろう?と。

平成25年度第2回メディアカンファレンスにおける末木氏の発表資料にはこう書かれております。

末木スライド 夜回り2.0成果
平成25年度第2回メディアカンファレンス 末木新発表資料 from Hajime_SUEKI

■成功の定義

1. これまでつながっていなかった新たな援助資源とつながった(援助要請行動の生起)
2. 感情のポジティブな変化に関する言及

2.はともかく、1.にあるように「新たな援助資源とつながって」初めて成功と言えるわけです。

そこで出てくる大きなコストの問題があります。

そう。つなげるための活動にあたる相談員の人件費です。

どの程度から「賃金抑制」になるのか?という問題ではないのです

ここでようやく末木氏のブログ記事の話になります。末木氏はこうおっしゃっています。

可能であれば、「賃金抑制」の水準がどの程度からなのかということについて、意見を聞いてみたいものです。「抑制されている」と言うためには、この程度が適切な水準というイメージが背景にないといけません。では、いくらくらいであれば適切なのでしょうか。地域別最低賃金というレベルでもないと思うのですが… いかがでしょう?

精神科周りの支援者の賃金はいくらが妥当なのか?自殺サイト:自殺・臨床心理学 (和光大末木研ブログ)

私はむしろ「ひとり最大月額5万円程度」という金額が、どういった計算を経て出てきたのかが気になります。そしてそれに関連して、一人の自殺ハイリスク者を新たな援助資源につなげるためには、どの程度の時間的コストと人件費としての金銭的コストがかかるかが知りたいです。

恐らく「ひとり最大月額5万円程度」という金額は、OVAの財政状況を鑑みた上で出せるギリギリのところなのだと思います。そういった意味では極めて良心的だと思います。

問題はつなげるため時間的コストと金銭的コストです。

金銭的コストは「ひとり最大月額5万円程度」が決まっていれば導き出すことはある程度容易かと思います。そして、時間的コストについては…考えるためのヒントが、上に挙げた末木氏のプレゼン資料の中にありました。

メール書くのは結構大変。自殺ハイリスク者あてならなおさらのこと

末木スライド 夜回り2.0 メールのやりとりの量
平成25年度第2回メディアカンファレンス 末木新発表資料 from Hajime_SUEKI

このスライド、詳細はうかがってみないとわかりませんが、総メール数というのは相談員から対象者宛のメールの数も含まれるんでしょうかね?そういうだとすると、1人辺りの平均メール往復回数は8.6÷2=4.3回。相談員は対象者1人につき平均4.3通のメールを書いている…ということにしておきましょうか。

ある程度テンプレートがあったとしても、自殺を考えている方宛のメールというのはかなり神経を使いそうです。そしてメールが来てからそれに対して返信するまでに間が空きすぎるのも良くないでしょう。

しかも、その回数で「新たな援助資源」につながるか、ある程度情緒面での解決が得られればまあいいんです。

問題は、「新たな援助資源」につながらなくて継続になってしまった場合です。

恐らくそういうケースは少なからずあると思います。つながらなかったからと言って、むげにやり取りを打ち切ることは出来ませんし、してはいけないと思います。実際、JIROさんはそんなことはしていないでしょう。

夜回り2.0の成果(3/3)
夜回り2.0成果 from Jiro Ito

1月末までで、相談員一人で185人にリーチ。継続的な相談を受けている。

というのは、もちろん185人全員の継続的な相談を受けているということではないと思います。

では1月末までの時点でJIROさんは何件の継続相談を続けていて、どのくらいの頻度でメールを書き、かつそのメールを書くための時間はどれくらい必要だったのか…大変気になります。

まとめ:現時点で私が知りたいこと

長くなりましたので、またこの続きは書きたいと思いますが、とりあえず現時点で私が知りたいのは

(1)「ひとり最大月額5万円程度」で想定されている最大ケース数は?
(2)その最大ケース数中、おおよそ何ケースが継続的なメールのやり取りとなる可能性があるのか?
(3)継続的なやり取りになった場合、一人当たりのメール往復頻度と月のメール往復回数は?
(4)1回のメール作成にかかるおおよその時間は?

以上の4点です。

(4)については個人差があるかと思いますが、(1)〜(3)はこれまでの夜回り2.0のデータからある程度算出可能なのではないでしょうか?

これらがどの程度なのかによって「ひとり最大月額5万円程度」は安過ぎにもなり得るし、高過ぎにもなり得ます。

ぶっちゃけてしまえば、ここまで考えてしまうと夜回り2.0のコストパフォーマンスはそれほど良いとは言えなくなると思います。

ただ、そのために夜回り2.0の価値が減ずることはありませんし、むしろこうした活動はコスト度外視でなされなければなりません。

その上で、前のエントリで私が述べたように、活動されている方の献身や自己犠牲による運営になってしまうことは避けねばならないと思います。専門技術に対する相応の対価は支払われるべきですから。

長文・乱文失礼しました。皆様のご意見をお待ちしております。

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