皆さんはご存知だろうか?芹沢達也という男を。
その名前は聞いたことがなくとも、ラーメンの味やビジネスにまつわる名言をやたらとぶっ放す、この頭髪のない男性の画像、ネット上のどこかでは見たことがあるはずです。
そう。彼こそがネット上でラーメンハ○の愛称で親しまれる芹沢達也その人なのです。
初出は雑誌『ビッグコミックスペリオール』で1999年から連載された原作:久部緑郎・作画:河合単の漫画『ラーメン発見伝』。
こちら、ラーメンを題材としたグルメ漫画なのですが、単にラーメンの「おいしさ」だけが問題となるのではなく、ラーメン店の経営的側面なども重要なテーマとして取り上げられております。SNS普及前の個人サイトやブログを中心としたネット戦略の話なんかも熱い時代でした。
主人公の藤本浩平は、脱サラしてラーメン店を開業するという夢を持ち、夜は会社に秘密でラーメン屋台を引きながら、自分独自のラーメンを開発…そんな藤本にとって最大の壁として立ちはだかるのが、日本一の繁盛ラーメン店「らあめん清流房」店主兼フードコーディネーターである芹沢達也です。言ってみれば「『美味しんぼ』における海原雄山」的な立ち位置のキャラなわけです。
幾度となく藤本と創作ラーメン対決を行うことになる、最大のライバルであると言える。藤本を事あるごとに皮肉を込めて「優秀な『ラーメンマニア』」と呼ぶ。一見単に馬鹿にしてからかっているようでもあるが、同時に経営者の視点や独創的な発想といった、ラーメン職人が持つべき力を持たない藤本の弱点を的確に指摘している。また内心では藤本の実力を評価しライバル視しており、その対決の中で自分を磨いている。
(ラーメン発見伝 - Wikipedia より)
ということで、実質的には主人公にとっての「強敵」であり「師匠」であるとも言える絶対的強キャラなのです。
『ラーメン発見伝』は単行本全26巻、連載期間は10年にも及び完結。
そして始まった続編が『らーめん才遊記』です。
「らあめん清流房」のオーナーでラーメン界のカリスマである芹沢達也は、ラーメン向けフード・コンサルティング会社「清流企画」を設立していた。また、実験的ラーメン発表の場としてセカンドブランドの「麺屋せりざわ」も開業していた。皆が絶賛する芹沢の月替わりラーメンだったが、「今イチ」だと述べる若い女性客が現れた。その女性客はタマネギのみじん切り炒めを乗せるという手法で月替わりラーメンの味を向上させた。
その女性客の名は、汐見ゆとり。清流企画の入社試験のために面接に来たところだった。
(らーめん才遊記 - Wikipedia より)
ということで、芹沢サンは主人公の上司として前作以上にガンガン出てきます。単なる「ラーメン職人」や「ラーメン店主」という立場だけではなく「敏腕フードコンサルタント」として、主人公を指導していくわけです。前作以上に「師匠」的な色彩が濃くなるわけですね。
この『らーめん才遊記』作中でも芹沢サンの名言炸裂しまくりですよ。
この「お客様は神様などではありません。」のセリフ。全ての客商売に言えることであり、なんなら我々対人援助職においても当てはまることなのではないかと思ったりします。さすが芹沢サン!ですよ。
そして『らーめん才遊記』は単行本全11巻、連載期間は5年ほどで完結。
『発見伝』も『才遊記』もグルメ漫画・ラーメン漫画・そしてラーメン店/飲食店経営漫画として傑作だと思うんですけど、いずれも共通する弱点がありまして…
…主人公のキャラが弱いんですよねえ。逆に言うとラーメンハゲのキャラが強すぎるんですよね。
そして『らーめん才遊記』連載終了から6年…さらに続編として連載開始したのが『らーめん再遊記』です。
ニューウェイブ系ラーメン界のカリスマ芹沢達也は、ラーメンに対する情熱を失いつつあった。 「らあめん清流房」各店やコンサルティング業務の「清流企画」の売り上げは好調で、特に汐見ゆとりが店長を務める「麺屋なでしこ」は年間売り上げが前年度比96%増。一方グループ旗艦店である「麺屋せりざわ」は黒字は出しているものの、看板メニューの月替わりラーメンの不調により売り上げの減少が続いていた。
そんな中芹沢と汐見は、ラーメン評論家から大学教授に転身した有栖涼の『ラーメン論4.0』の出版記念パーティーに招かれたが、席上「東京ガストロノメン」店主・米倉龍大(世界的グルメガイド「ムシュロン」で二つ星を獲得した)が芹沢を批判し、これに怒った汐見ゆとりの思いつきで芹沢と米倉による新旧天才ラーメン職人対決が企画された。
(らーめん再遊記 - Wikipedia より)
そう。ついにラーメンハゲが主人公になりました!
でも初回冒頭からあの超絶強キャラであったはずのラーメンハゲがショボくれてます。以前の芹沢サンであったら絶対に来るはずのない、カビの生えたような古臭いラーメン店での食事シーンから始まります。
作中でも「ミドルエイジ・クライシス」という言葉が出てきておりましたが、まさにそれ。「日本一のラーメン店主」として、そして「敏腕経営者」として、圧倒的な成功を収めたはずなのに、ラーメンへの情熱を失い、なんなら生きる気力さえ失われていく…。
そんなラーメンハゲがどう再起し、そしてどうやって「新たな道」を模索していくのか、まさに中年の、中年による、中年のための(若者もね)傑作となっております。
是非読むべし!
…と言いたいのですが、これ、第1作の『ラーメン発見伝』から読んでもらわないと、この感動は伝わらないと思うんですよねえ。はい。ハードル高いのはわかってます。
でもおすすめです。
中年の悲哀とそして再起。マジおすすめです。