研究と臨床 臨床心理学

大学入試で旧帝大に入るくらいの知的能力がない人は心理職は目指さない方が良い?

投稿日:

東大赤門

そんな暴論、誰が放った?

大学入試で旧帝大に入るくらいの知的能力がない人は心理職は目指さない方が良い

こんな乱暴なことを言う輩がいるんですね。一体誰ですか?

はい。私です。

【旧帝大とか】勘違いしている人がいる【そういう話】(05/10/11)

もう12年も前に書いた記事ですね。

先日、日課であるエゴサーチをしておりましたらこんなツイートを発見しまして。

いやいや。私も“「大学入試で旧帝大に入るくらいの知的能力」=(or ≒)「臨床における知的能力」”であるとは思っておりませんよ。関係する部分もありますが、関係ない部分も多々あると思います。

それでも、未だに私は「大学入試で旧帝大に入るくらいの知的能力がない人は心理職は目指さない方が良い」と思っております。

…なんか誤解されているというか、理解されていない可能性が大なので、上記過去ログを公認心理師法が施行された現状に合わせてリライトしたいと思います。

あ、ちなみに私、出身は学部も大学院も旧帝大ではないです

臨床心理職にとっての「調査・研究」

臨床心理士の業務の中には「臨床心理学的調査・研究」が含まれております。

臨床心理士に求められる専門行為とは、

①種々の心理テスト等を用いての心理査定技法や面接査定に精通していること。
②一定の水準で臨床心理学的にかかわる面接援助技法を適用して、その的確な対応・処置能力を持っていること。
③地域の心の健康活動にかかわる人的援助システムのコーディネーティングやコンサルテーションにかかわる能力を保持していること。
④自らの援助技法や査定技法を含めた多様な心理臨床実践に関する研究・調査とその発表等についての資質の涵養が要請されること

などです。

臨床心理士とは | 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会より抜粋)

残念ながら公認心理師の方は明確にそれを業務の一部とするとはしておりません。

公認心理師とは、公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。

(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供

公認心理師 |厚生労働省より抜粋)

しかし、法律上業務として含まれていないとしても、私は臨床心理職にとって「臨床心理学的研究・調査」を行うこと、あるいは少なくともそれを行うための能力を持っていることは必要だと考えます。

だって臨床心理職に携わるものが研究をやらないのなら、誰が臨床心理学的研究を行うのですか?

臨床心理学のための貴重なデータを持っているのは、当然、臨床心理職に携わる人たちです。もちろん、研究を専門としている人たちと共同する、データを共有するという形はもちろんあるのですが、いずれにしてもただデータを提供するだけというわけにはいかないでしょう。

さらに、臨床心理職に携わる人たちにとって、研究をすることは自身の臨床実践の質を高めることにも繋がると私は考えています。

いわゆる「仮説検証型」の研究というのは、仮説を立て、それを検証するための方法を考え、出てきた結果を解釈し、仮説が誤っているならば修正し、さらに仮説検証していく…という一連の作業のことだと思います。

これって心理臨床実践と全く同じですよね。

アセスメント(見立て)をするというのは臨床的仮説を立てるということだし、それに基づいて介入方法を考え、そして介入した結果から必要に応じて見立てや方法を修正していく。私は心理臨床実践は仮説生成-仮説検証の繰り返しだと思っております。

研究に携わるということは、そうした臨床における仮説生成-仮説検証の過程を洗練していくことにも繋がるのではないでしょうか。

研究に必要な能力とは?

では、こうした研究を行うために必要な能力としてはどんなものが考えられるでしょうか?

研究をするためには、基礎的な統計を理解し使いこなす必要があります。計算自体は四則演算の組み合わせでできるでしょうけれども、その原理をある程度理解するためには、それなりの数学的素養は必要になるはずです。

また、最新の知見を手に入れるためには英語が読めることは必須です。英文でアブストラクトなんかを書いたりする必要がありますから、英作文もある程度できなくてはならないでしょう。今後は、英語論文を書く必要に迫られることもあるかもしれません。そうなるとさらに高度な英作文能力が必要になります。

英語以前に、論文を読んで理解する国語能力も必須です。さらに、自身の考えをまとめるためには論理的思考の能力は欠かせません。

さらにこれは臨床的仮説を立てる場合もそうですが、少なくとも過去の研究に関する知見は自身の中で整理して蓄積しておく必要があります。無から仮説を立てることなんて不可能ですから。だから、論文の「問題と目的」のところには先行研究が必要になるわけです。そう考えるとある程度の記憶力や情報処理能力は当然必要になります。

「この程度は当たり前」とおっしゃる方も多いことでしょう。

でも、これらの能力を持ち合わせていれば、旧帝大くらいは入れるんじゃないかと思うのですがいかがでしょうか?

「旧帝大卒以外は心理職は目指してはいけない!」ではないのです

以上はあくまでも大学入試の段階での知的能力の話でしかありませんし、旧帝大卒以外は心理職を目指さしてはいけないと言っているわけではもちろんありません。

繰り返しますが、私も学部・大学院ともに旧帝大ではありませんし。

ただ、「旧帝大卒ではない」からというわけではないのですが、今も私は英語に苦労してたりしますし、統計に関しても悩ませられることが結構あります。大学時代、いや、それ以前の高校時代に、もっと勉強していたら少しは違っていたのかなあと思ったりもします。

私はこれまで何度か、将来臨床心理士になりたいという高校生の方から、志望校などについての相談を受けたことがありました。その際、私がいつも言っていたのは「臨床心理学専攻があるところで、入れる可能性のある一番偏差値の高いところを目指した方が良いですよ」ということでした。

「○○で有名な先生のいる○○大学に入りたい!」という人もいたりしますが、それだったら大学院でそこへ行けばいいわけじゃないですか。

学部レベルで学べることなんてたかが知れているわけですし、そもそも大学に入ってから進路を変更することだってあるかもしれません。例えば「やっぱり一般企業に就職したい」となった時、同じ臨床心理学科卒でもより偏差値の高い大学出身の方が有利になる可能性は高いでしょう。

もちろん、経済的な事情から自宅から通える範囲の大学しかなく、旧帝大に入るのは無理という方もいるでしょうし、どうあがいても大学受験の段階で旧帝大に入るレベルまではいかないという人もいるでしょう。

そういう人たちも入れる大学に入ればいいと思うのですが、ただ、心構えとしては「最低限、その程度の能力は必要」というところは理解していただきたいですし、それを踏まえて大学に入ってから勉学に励んで欲しいのです。

これからの学生のために

こんな話をすると、例えばメラニー・クラインのことなんかを持ち出して、この手の知的能力と臨床能力は関係ないとおっしゃる方も出てくるかと思います。

でも、そんな特殊な事例、天才の話をされてもねえ、と思うわけです。

私はこの話をこれからの学生に向けて書いています。

公認心理師法が施行され、これから多くの方たちが臨床心理職に就きたいと資格試験を受けることでしょう。

でも正直、私はこの仕事、そんなに数はいらないと思っています。臨床心理士は年間1000人単位で資格保持者は増えていきましたが、就職状況はそれほど良くないはずです。あえて、という人もいるかもしれませんが、非常勤で食いつながざるを得ないという方達も少なからずいます。その状況は公認心理師の資格ができても改善されることはないでしょう。私はむしろ、悪くなる可能性すらあると思っています。

そんな中で生き残っていくためには、やはりそれなりの努力をする必要はあるんじゃないでしょうか。その気概があれば、大学受験程度はクリアできちゃうんじゃないかと思うんですがいかがでしょうか?

この先生きのこるには

私は別に「勉強できるのが唯一の価値である」なんてことを言う気は毛頭ありません。ただ、それは少なくとも客観的な指標の一つにはなると思っていますし、その一つの指標で志望者をバッサリ分けても、まだ「なりたい人」は多すぎると思っています。

「なりたい!」とか「がんばります!」とかいう気持ちだけでは食えないですし、その気持ちだけではまともな仕事ができるなんてことはないです。

ついでに「研究しているから優れた臨床家であるとは限らない」という反論があるかもしれません。それは全くその通りなのですが「優れた臨床家であるなら、研究くらいはできるでしょ?」とも言いたいです。

そんなわけで、この先生きのこるために、公認心理師資格を将来取得したいと思っている高校生には大学受験のための勉強をがんばっていただきたいと思いますし、同じく公認心理師資格を取得したい大学生の皆さまには、臨床も研究もある程度のレベルでできる臨床家を目指していただきたいと思っています。

私も生きのこるために努力します。

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