とても気になったこちらの本
先日、この本を書店で見つけてとても気になったのです。
現実感がなく、共感性が育っていない現代の子ども。その原因は、ゲームの普及や核家族化、近所付き合いがなくなるなどで、友達や大人との関わり方が変わったことだと考えられる。そこに臨床家はどうアプローチしていくべきか。S-HTP法研究の最先端の情報を元に、S-HTP法の今後の発展や可能性について述べる。脳科学と絡めた考察や、タイの田舎・都会、日本の過去・現在の画を比較、S-HTP法の評定尺度の作成に取り組んだ研究などは、新しい視点を専門家に提供する。
出版社の紹介ページでは詳細な目次が見られます。
私がパッと見で気になった点は2つ。
一つはタイトルにある「発達の停滞」という言葉。
そして、もう一つは帯にある「心のレントゲン」という言葉です。
以下は、あくまでも「立ち読みしかしていない」私の感想であることを踏まえてお読みいただけたらと思います。
「発達の停滞」とは?
まず気になった点の一点目、「発達の停滞」についてですが…。
S-HTPにおける「統合性」が近年変化していっていることを、筆者は「発達の停滞」と呼んでいるらしいです(私の誤読でしたらご指摘ください)。「現実感がなく、共感性が育っていない」現代の子どもの問題がそこに表れているのだ、と。
詳しく読んでないんでアレですが、例えばサンプリングの問題があるんじゃないか?とか、それに関連して被検者のモチベーションはどうだったんだ?とか、色々とツッコミが考えられます。
そして筆者はS-HTPにおける「統合性」と脳の前頭前野の機能との関連を論じているのですが、ここで筆者がその論旨に賛同しつつページを割いて引用しているのが、あの森 昭雄著『ゲーム脳の恐怖』です。
もうこの時点で「読む価値のない」本になってしまってます。
いや、読む価値がないだけならまだマシです。むしろ読む人に悪影響を与えかねません。S-HTP自体は心理アセスメントのツールとして有用なものだと思いますが、その有用性に対する誤解を与えるかもしれないという意味で。
S-HTPにおける「統合性」の変化を考察する際に、「ゲームの普及や核家族化、近所付き合いがなくなるなどで、友達や大人との関わり方が変わった」という結論がありきなのですよね。だからこんなおかしなことになってしまうわけで…。
「心のレントゲン」という言葉自体がマズい
そしてもう一つ気になった帯に大きく書かれたこの言葉。
「心のレントゲン」です。
繰り返しますが、S-HTPは心理アセスメントの有用なツールではあります。
しかし、そもそも心理アセスメントは「レントゲン」のように心の中が透けて見える…なんてことでは決してないのです。
心理アセスメントというのは、わからないながらに相手を理解しようという試みであり、そこに各種心理検査と同様に面接技法というのも含まれるわけで。面接によって対象者を理解しようという試みを「レントゲン」に例える人はいないですよね。
少なくとも院生であればそうした誤解をしている人はいないと思いますが、やはりこの「心のレントゲン」という言葉も門外漢には誤解を与えてしまいそうな気がします。
そうした言葉を一番目につく表紙や帯で使ってしまっていることに大きな問題があるのではないかと思います。
同じ著者による別の著作を見てみると…
一応、心理アセスメントを専門としており、研究テーマの一つが描画法だったりするワタクシなのですが、これまでこの著者の論文や本をちゃんと読んだことがありませんでした。
そんなわけで、例えばこの辺を見てみると…
「働くママと専業ママ、子どもの意識にも違いが?」
「妻の収入で夫の協力度が変わる!?」
「出産後も仲のいい夫婦は…たったの2割!」長年にわたり臨床心理士として育児問題や子育て支援に携わってきた著者が、育児や夫婦関係に関するさまざまな統計データや研究報告を基に、育児によるストレスやそれに伴い生じる夫婦関係の変化など「現代の育児事情」をわかりやすく考察。さらに母親が知りたい子育て支援に関する情報や、著者が普及を推進する「Nobody's Perfect 完璧な親なんていない」プログラム、日本の育児事情を変化させるワークシェアリングの有効性を提案。また、育児に奮闘する現役の母親たちが本音を明かす「ママたちの座談会」も収録。幸せな子育てライフ、ワークライフバランスを実現するためのヒントを提示した一冊。
Amazonさんのレビューを見ただけでわかります。
「あー、そういう人なのね」と。
今回ご紹介した『S-HTPに表れた発達の停滞』に記載されているデータは非常に興味深いです。
しかし、食材は良いのにその料理の仕方が決定的に間違っている…というとても残念なパターンです。
誰かこの本、買ってください
…と、ここまで読まれた方で「読んでないクセに勝手なこと言うんじゃない」というご批判をされる方もいることでしょう。はい。誠に正当な批判であり、全く反論出来ません。
本来であればしっかり読み込んだ上で、細かく問題点を論じていかねばならないということは重々承知しております。
ただ、明らかな地雷に2500円以上を出すというのは、私の財政状況から考えるとかなり苦しいです…というか無理です。
正直なところ、この本を2625円出して買うなら、アイカツを26回プレイした方がマシです(←ゲーム脳キター)。
そんなわけで、どなたかこの本、私に買っていただけませんか?そうしてくだされば、もっとちゃんとしたレビューが書けますので。
ただ、それがこの本の売り上げに繋がるかというと全くそんなことはないと思います。その辺をご理解いただける奇特な方がいらっしゃいましたら是非ともよろしくお願いいたします。