臨床心理学

『「心理テスト」はウソでした。』は(一部)ウソでした(たぶん)

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4/6のエントリ、そこに書かれてもにもあるように、ちょっとした宿題が出ていたので私なりに考えてみました。

4822244466 「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た
村上 宣寛

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この本について「これってどうよ?」という問題提起を某所でされておりましたので書いてみたいと思います。
まあ、私の文章表現能力では書評なんて立派なものは書けないので「読書感想文レベル」ではありますが、とりあえず見ていただけたらと…


…などと思いつつ、ぼーっと2ちゃんねるの心理学板を見てるとこんなスレッドがありました。
村上宣寛氏について教えてください。
このスレッドのレス番号394以降で発言している"脂 ◆xUWwAU4zto"というハンドルの人…ッこの人の発言内容がかなり私の考えに近いので、せっかくなんでこの人の発言を参照しつつ、わたくしめの考えなどを述べていきたいと思います。

394 名前: 脂 ◆xUWwAU4zto [sage] 投稿日: 2005/06/01(水) 23:26:41
「心理テストはウソでした£のロールシャッハのとこだけ
立ち読みしてきた漏れがきましたよ。
395 名前: 脂 ◆xUWwAU4zto [sage] 投稿日: 2005/06/04(土) 17:29:44
独り言ってことで。
まずブラインドアナリシスについては,当たらないからロテが妥当でない
と言えるようなもんではない。これはどっかで書いた。
んで,大御所3名の精神分析的象徴解釈については,
漏れもやりすぎだと思ってます。その点は村上氏に同意。
んで,ロールシャハ法が精神病理をよく弁別できない,という話。
これもごもっとも。そもそもロールシャッハ法の得意分野は
人格理解とそれによる治療計画の立案ってとこにあるわけで,
病理の弁別ができないからといって,ロールシャッハの全てが
妥当でない,とはならない。

ロールシャッハ法のブラインドアナリシスほど意味の無い物はないと思います。
練習だったりトレーニングのためだったりには良いんですが、Weiner(1998)が述べているように(そしてこの脂 ◆xUWwAU4ztoという人もこの後述べていますが)、ロールシャッハはテストというよりも半構造化面接の一種としてとらえた方が良いという意見もありますし、私もそう思っております。
大御所3名のブラインドアナリシスを心理臨床学会のシンポジウムで行った空井氏(この人もまた大御所ですな)が何を意図していたのかはわかりませんが、少なくともこの方々は皆さんブラインドアナリシスには臨床的な意味がないことは理解されていると思いますし、その辺りを著者は意図的に無視したのか、あるいは理解できていないのか…いずれにしても問題アリだと思われます。
「精神病理の弁別」という辺りについては修正BRSに関して言っているのでしょうか?
私は算出しても意味がないと思ってますので修正BRSは最近出した記憶がありません。
で、病理が弁別できないかというと、私はそんなことはないと思っています。
脂 ◆xUWwAU4zto氏が述べるように、ロールシャッハは人格理解に有効ですが、それは言うなれば、認知や情動、思考面でどういった特徴を持っているか理解するのに有効であるということを意味しています。
そうした特徴がわかれば、病態理解にはかなり役に立つはずなのですよね。
病理の弁別(って実はこの言葉はよく意味がわからない)は、精神疾患がどんなものか理解し、そしてロールシャッハの妥当な施行・解釈ができるのであれば充分可能なはずです。

396 名前: 脂 ◆xUWwAU4zto [sage] 投稿日: 2005/06/04(土) 17:40:43
つづいて,研究の話。
彼は「ロールシャッハはどの質問紙とも相関がなかった」と
引用しているが,それはウソ。今日山のようにt蓄積された
ロールシャッハ法に関する研究を見れば,質問紙との相関なんて
いくらでも出てる。こないだBIG5との相関関係を報告した研究も
発表されたしな。
エクスナーのインチキの話。
これもごもっとも。エクスナー最悪。逝ってよし。
んでも,「エクスナー以外のデータを使うと,だれもが正常に見えた」
ってのは,これまたロールシャッハ法の妥当性を直ちに脅かすものでは
ない。「病気かどうか」よりも,むしろ「どんな人か」ってのが
ロールシャッハ法の得意分野であることは既に述べた通り。
んで,エクスナーの解釈仮説の話。
ロールシャッハ法の解釈仮説の中には,氏の指摘するような,
論理的に非常に安易なものが散見される。これは事実。
だからそれを鵜呑みにして解釈するのは危険だと思われ。
さらなる検討も必要でしょう。言うまでもなくね。
あとは覚えてないけど,とりあえずグッバイできるほどの批判では
なかったね。一方的だし,ご都合主義だし,批判も新しくないし。
「誤用するなよ」っていう警鐘としてなら受け入れますがね。
397 名前: 脂 ◆xUWwAU4zto [sage] 投稿日: 2005/06/04(土) 17:51:39
ヒルガードにも書いてあったけど,
ロールシャッハ法を厳密なテストとしてとらえるならば,
その妥当性については認めがたいという指摘は既に多くなされている。
しかしロールシャッハ法が,標準化された手続きをもつ
半構造化面接であるという考え方は,もはや広くコンセンサスの
得られた見解である。村上氏の批判の穴のうちの一つは,
この点について全く触れてない事,そしてそれを推し進める
ワイナーの研究には一切言及していないところだ。
批判するなら,もっと本気でやってもらいたいね。
優れた批判は優れた反論を生みうるわけで。

はい。「相関がない」というのはウソですね。
そしてエクスナーが糞というのも同意。
まあ「エクスナーが糞」というよりも、「エクスナーのデータが糞」と言った方が正しいのかもしれませんが。
聞いた話では、エクスナーの大規模データは実はいいかげんなものが少なくなく、大してトレーニングを受けていない人間がデータ収集に関わっていたりするということです。
その点を考えると日本でやってる包括システムのデータ収集の方が、信頼性は高いのではないかと思います。
つーか、単純にいくつかの指標から「この人は正常・この人は病気」なんてことが言えるはずないです。
それは「正常・異常」の定義にもよるし、そんな簡単に弁別できるとしたら精神科医なんていらないですもん。
エクスナーの解釈仮説についても「その解釈仮説がなぜ導き出されてきたのか」を理解した上で用いるならまだしも、機械的に算出したところでやっぱり意味がないものなのですよね。
数値データだけはなくプロトコルをしっかり読めるようにならなければ、到底使い物にならないわけで…その辺、包括システムを使ってる人がどの程度理解しているかが問題だと思うのです。
で、やっぱり「グッバイ」できるような批判じゃないですね。
ついでにロールシャッハ法に関するワイナーの近著をご紹介。

4622071363 ロールシャッハ解釈の諸原則
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もし仮に村上氏がこの本を読んだとして、同じ批判が出来るだろうか?
ついでにその後の脂 ◆xUWwAU4zto氏の発言も引用。

400 名前: 脂 ◆xUWwAU4zto [sage] 投稿日: 2005/06/05(日) 00:45:50
>>398
費用対効果という観点から言うと,ロールシャッハ法は時間も手間も
かかりますし,被験者の負担もそうとうなものです。
よって,ほんの少しの情報しか得られないのであれば,
こんな検査用いるべきではありませんね。
まぁ詳細についてはこういう場なので書くことは控えますが,
ロールシャッハ法の優れている点は,質問紙等とは異なり,
被験者に関する多様な情報を包括的に得られる,と言う点です。
ロールシャッハで得られる情報の全てを,他の方法によって
得ようとすれば,用いるべき質問紙は膨大なものになるでしょうね。
しかし,これもまぁ臨床における志向性にもよるんだと思います。
特に力動的なアプローチを取る臨床家にとっては,このような
包括的な情報が非常に役に立つわけですが,
問題解決志向の臨床家にとっては,それほど有用な
情報にはならないかもしれません。

…なんかこの人、私の知り合いのような気がしないでもありません。

405 名前: 脂 ◆xUWwAU4zto [sage] 投稿日: 2005/06/06(月) 00:01:50
>>404
ん。
>でもそれだけ統計量がばらついているのはロテストの信頼性
>だけではなく,査定する人の「力量」が影響しているのでしょうね.
と言うよりも,ロールシャッハの指標と質問紙は,
それほどリジットに相関しない傾向にある,ということですね。
これはよく訓練された人が研究を行った場合でも同じかと。
査定する人の力量が影響するのは,言うまでもなく
解釈の段階ですね。ロールシャッハ法は数量的な指標だけで
解釈が事足りるような性質のものではありませんから,
プロトコルからより多くのことを読み取れるように訓練しなければ
ならないし,同時にそれが独りよがりの妄想にならないようにも
しないといけない。ロールシャッハの訓練はなかなか大変です。
大学院で実習しました~とか,その程度で使いこなせるもの
ではないですわな。まぁ最初は誰でも初心者ではありますが,
研鑽しない初心者はただの±?ということで。
そういう輩はなんとかならないもんかとは思いますがねぇ。

激しく同意。
そんなわけで、『「心理テスト」はウソでした』は一部ウソだったようです。
納得できる部分もないわけではないですし、こうした批判に対してどう答えるべきか考える糧にはなると思いますが、やっぱり物足りないですね。
あと、いくつか大きな問題があります。
ここでは書かないけど。いろんな意味で書けないので。

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