06/01/02のエントリ、修論でケース研究は何故ダメなのか~ジレケンさんへのマジレスで「修論で事例研究(事例報告にあらず)というのは難しいYO!」という話をして関連書籍も挙げたのですが、後で「他にも何かあったよなぁ~」と考えていて思い出しました。
これがありましたよ。
臨床心理学 (第1巻第1号)
金剛出版 2001-01 |
金剛出版の『臨床心理学』の創刊号ですよ。
この号、特集はそのものずばり「事例研究」でして、各分野の大御所が様々な視点で「事例研究とはなんぞや」ということについて書かれています。
その中でも「事例研究と事例検討の違いについて」というのは一つの重要なトピックとなっており、乾吉佑氏は『事例研究-力動的な視点から-』という中で以下のように述べております。
「事例検討」はベテランでも当然必要なことであるが、むしろより初学者や比較的経験の少ない方々が、事例についての対応の仕方を学ぶ場として位置づけられるであろう。
(中略)
一方、「事例研究」は、比較的臨床の経験が進んだ方々による事例報告で、その中から認識された課題となるテーマがはっきりしており、事例報告そのものへの検討より、むしろ事例から得られた個別的経験を普遍的理解へと進めてゆく治療者の姿勢と論理的な整合性をもった場として位置づけられよう。
…私なんぞに言われたくないでしょうけれども
乾氏GJ!です
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( ⌒) ∩_ _グッジョブ !!
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_n グッジョブ!! ./ /_、_ / ノ'
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事例から得られた個別的経験を普遍的理解へと進めてゆく治療者の姿勢と論理的な整合性をもった場として位置づけられよう。
ということで「やはり論理的思考というのは重要なのだな」ということにもなりますね。
また、山中康裕氏はやはり『「事例検討」と「事例研究」』という節で以下のように述べております。
当然ながら、「事例検討」と「事例研究」とは、全く異なったものである。前者は、つまり「事例検討」は、その事例にそった形で、あくまで、その事例のもつ問題点の指摘や、事例の展開過程におけるもろもろの指摘を受けたりすることが目的となり、あくまで、その事例自身に還元されることがひとつ究極目標であるが、後者、つまり、「事例研究」は、そういった個々の「事例検討」を纏めて、例えば、これこれの症状のもつケースでは、どういった形で現れてくるか、を比較検討して、より「普遍的」なものを追求せんとするものがその一つの典型である。そして、いま一つの典型は、そうした、数多くの「事例検討」を考察対象としてnomothetic(法則定立的)なものを追求するのではなく、たった一例のケースでも、idiographic(個性記述的)な研究は成立しうる。例えば、たった1回のセッションにおいてでも、どんな「言葉」がそのセッションにおいて、どのような頻度で使われ、どのような特徴的な現れ方をしているか、その時のセラピストとクライエントとの「関係性」がどのような形で動いているか、といった観点で研究するのも、また、その一つなのである。
前者の「法則定立的」な研究に関しても、後者の「個性記述的」な研究に関しても、それが「研究」として成立するためには、つまり普遍的に言い得る事実を探り出す「事例研究」が成り立つためには、非常に高度な臨床的技能が必要であることは言うまでもないでしょう。もし「修士課程修了程度のレベルでその能力は身につけられる」という教員がいたとしたら、その人の臨床実践に対する態度には疑問を持たなければならないでしょう。
万が一、それが可能な恐ろしく優秀な院生がいたとしたら、まあそういう人は事例研究でもなんでもやってくれって感じですが、それを一般化して「修論で事例研究でもオッケー」とするのは無理があるでしょう。それに、それだけの能力のある人は事例研究が持つリスク(この辺はデスマさんが当該エントリのコメント欄で述べていますが)には気づくでしょうし、質問紙調査や実験などによる量的研究を行う能力だって持ち合わせているはずです。
ま、こんな感じでいかがでしょうか?>ジレケンさん
ご理解いただけたのであれば、その旨一言でも書き込んでいただけるとうれしゅうございます(この手の方はそれがないんだよなぁ…言ったら言いっぱなしということが多いので反論する甲斐が薄れるというものです)。
ちなみに今回ご紹介した本、読み返してみると割と読むべき所は多いように感じました。興味のある方はご購入していただけるとうれしゅうございますよ。
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