研究と臨床

【再現性】臨床心理士が研究するということ(3)【論理性】

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先日書いた記事【研究】臨床心理士が研究するということ(1)【臨床】に対してsimoneさんからコメントいただきました。これは私の臨床的立場が精神分析的なものであることを受けてのコメントでもあります。

 



私は「科学的思考って、精神分析に適応できるのだろうか?」と疑問に思っていました。例えば、フロイトの言うところの「退行・大洋感情」とか、ウィニコットの言うところの「(移行対象でいう)中間領域」とか、そういう感覚的にしかわかりにくい「心的過程(状態?)に関する仮説」があるじゃないですか(ですよね?)。ひょっとしたら心理学的に記述できるのかもしれないけど、果たして記述可能なのか私としてはどうも、疑問に思ってしまう現象なのですが。そういう記述困難な心的過程(状態?)に関する仮説をもとにした理論には、どこまで科学的思考が適用できるのか、私のような臨床経験ナシの門外漢には不思議でなりません。何というのか分かりませんが、「こういう心的過程を経るはずだから、治るはずだ」と言うか。「見立て」る際に科学的に考えると、科学的に処理できない前提が出てきて、何かしら不具合は起こらないのかな?と。

「心理学的に記述する」とかってことの意味はよくわかりませんが(ごめんなさい。私の理解力不足です)…ポパーによる精神分析批判というのはご存じの方も多いかと思います。1970年代の初頭、イギリスの科学哲学者カール・ポパーは科学と非科学とを区別する境界設定の基準として、「反証可能性」という概念を提唱しました。反証可能性とは「ある仮説が間違いかどうかを実験・観察の結果によって証明できる方法があること」と定義されます。で、反証可能性に照らし合わせてみれば、精神分析の理論が科学的ではないことは私も重々承知しております。

でもそんなことを言ったら、少なくとも心理臨床ってのはどんな技法を用いたとしても(例えばエビデンスが確立されているとされる認知行動療法などでも)、厳密な反証可能性というのはあり得ないんじゃないでしょうか?前にも書いたと思いますが、臨床場面においては変数の統制は困難であり、全く同じ状況を作って実験・観察することなどは不可能です。比較的変数を統制しやすい行動療法だって、(研究レベルでの統制は困難であると考えられる)ラポールなどがないと治療は進まないわけで、やはり厳密に変数を統制するのは不可能なんじゃないでしょうか。

じゃあ臨床実践の中で科学的思考は不必要なのかといったら、これはやっぱり違うと思うのです。少なくとも「再現性」は高めていかないと、それは治療じゃないと思うのです。臨床実践の中で「再現性」を高めるというのは、つまり「改善率」だったり「治癒率」を高めるということにつながります。これは、ある技法を用いた時に「改善する」という結果の再現性を高くするということです。

こうした観点がないとどうなるのかというと…「なんだかよくわかんないけど、こんな話をしてたら良くなった…みたいです」的なケースが増えるわけです。「なんだかわかんないけど良くなった」では、そのクライエントには通用しても、他のクライエントには通用しない可能性はありますよね。それは心理臨床ではありません。当たるも八卦当たらぬも八卦の占いだったり呪術だったりと同じです。

で、「再現性」を高めるにはどうすればいいかというと、「論理的」に考えることが必要だと思います。臨床場面での治療者の応答は、常に「見立て(=治療的仮説)」に裏打ちされた治療的意図に基づくものである必要があります。上で述べたような「なんだかわかんないけど…」ではなく、「○○だからこうした」ということを常に論理的に破綻することなく考えることが必要であるわけです。で、これを常におこなっているのに「再現性」が低いとしたら、それは見立てが間違っているということになるでしょう。

まとめると、精神分析は科学的思考に基づく研究ベースには乗らないと私は考えています。ただ、まともな心理学的研究で必要とされる(そして研究の中で磨かれる)科学的思考は臨床実践には必要なものであると思います。それは特に「再現性」だったり「論理性」だったりという面で…という意味です。これでsimoneさんへの回答にはなったでしょうか?

#こうやって下手な文章をまとめていると、いかに自分が「論理的ではないか」を気づかされます。そんな時、自分の頭の悪さが悲しくなるわけなんですが…とりあえず頭が悪いなりに一生懸命考えながら臨床実践に臨みたいと思う今日この頃です。また色々ツッコミどころはあると思うので、コメント・TB等ありましたら、よろしくお願いします。

参考リンク
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
精神分析学
カール・ポパー
反証可能性

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