で、注目はこの4番目です。「臨床心理学的研究」。研究ってのは臨床心理士の重要な仕事なわけです。この項目が入れられたのは、元々我が国の臨床心理士制度がアメリカの制度に倣って作られたことに由来しています。
以下
下山晴彦(編) 2000 臨床心理学研究の技法 福村出版
からの引用です。
臨床心理学における実践性と科学性の統合に関してアメリカ心理学会(APA)では、1949年に臨床心理学の大学院教育プログラムのモデルとして科学者-実践家モデル(scientist-practioner model)を採用することを宣言している。それは、臨床心理士の資格試験を受けるためには、大学院博士課程において臨床心理士の実践技能の訓練を受けるとともに博士論文として科学性のある心理学研究論文を執筆することを条件とするというものであった。
…というように、アメリカの制度では「科学性のある心理学研究論文」を執筆することが臨床心理士受験の条件になっているわけです(ただPh.D.取得という条件は非常に厳しいため、後に臨床実践メインでもとりやすいPsy.D.=Doctor of Psychologyという新しい博士号ができてます)。
さて、このような高い目標を目指して作られた日本の臨床心理士制度ですが、takashiさんの日記の記述にもあるように、日本では心理臨床実践ばかりが注目され、「臨床心理学研究」の多くは単なる「事例報告」でしかないという現状になっています(これは『心理臨○学研究』を読めば一目瞭然でしょう)。
私はこれまで述べてきたように、研究することそのものが臨床実践の質を高めると思っています。逆に言えば、日本の臨床心理士のレベルが低いのは(本来重要な仕事であるはずの)研究活動を怠っているのがその大きな要因になっているとも思います。
さらにその背景にはやはり「指定大学院制度」があるのだと思います。指定大学院のカリキュラムってはっきり言って中途半端なんですよね。一応、単位として実習は課しているものの(1種指定だろうが2種指定だろうがこれは関係なく)その実習の質は一定ではありません。実習先の良し悪しっていうのもあります。専門職大学院を目指すのであれば、もっと徹底的に実習で「体で覚えさせる」教育をするのも一つの手だと思いますが、前にこの記事でも書いたように実習先の確保自体が困難なのが現状です。
私はいっそのこと卒後実習のシステムをしっかりと整備した上で、大学院は研究メインでやった方がいいんじゃないかなと思っています(あるいはイギリス・アメリカなどのように博士号を必須とするってのも考えられますが、あんまり現実的じゃないですよね)。その方が今の中途半端な状況よりはよっぽどまともになるんと思うんですよ。まあ、問題はその卒後研修のシステムをどうするかってことになるんですが…いずれにせよ研究できない心理士を粗製濫造する現在のシステムは腐っているのは確かです。そもそも2年間トレーニングしたところで、できることなんてたかがしれてますもん。
この辺については賛否両論あると思いますので、色々とコメントいただけたらと思います。
次回はこれまでこのシリーズでコメントいただいて、まだ回答していなかった方のご意見をとりあげていく予定です。
参考リンク:2ちゃんねる心理学板で現存のスレッドの中ではかなりの良スレ。私はたいしたことは発言してないような気も…
Scientist-PractitionerとかEvidence-baseとか
<まだまだ続く>