心理・精神医学本

【見所(読み所?)】ロールシャッハ法を学ぶ【多いです】

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久しぶりのロールシャッハ関連本のご紹介。

4772402845 ロールシャッハ法を学ぶ
順天堂大学心理学グループ

金剛出版 1988-05
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この本の監修者は【これは】ロールシャッハ解釈の諸原則【買いでしょ!】『「心理テスト」はウソでした。』は(一部)ウソでした(たぶん)【再度】ロールシャッハ解釈の諸原則【ご紹介】でご紹介した(てか3回もとりあげているのね)『ロールシャッハ解釈の諸原則』の訳者の一人である秋谷たつ子氏です。
知っている人は知っている話であり、この本の「序」にも書かれているのですが、秋谷氏は日本におけるロールシャッハ研究の第一人者の一人であり、そして心理職としては(そして女性でありながら)唯一、医学部の専門課程で助教授まで勤められた方です。
今回ご紹介する本にはそこに至る経緯が簡単に書かれているのですが、秋谷氏が医学部に学位論文を提出しようと考えた際のエピソードは非常に興味深い…というか現在の心理職の国家資格化問題を踏まえると色々と考えさせられるものがあります。
ちょっと引用してみます。

(前略)筆者もまた、自分のテーマをまとめて可能ならば学位論文にしようと思いその旨を教授に伝えた。教授は言下に「あなたなら結構なのです。しかし世間のサイコロジストたちは臨床の訓練なしにカウンセリングを患者に行っている。患者の側からは医師なのかそうでないのかの判断はできないから、したがってサイコロジスト一般に医学博士の称号を与えることは社会的に危険なことであり、この危険防止のために私(教授)はサイコロジストに医学博士の称号を与えるのは不賛成である。論文は教育学部に提出して欲しい」と言われた。
(中略)
先生は率直に自分の意見は論理的ではなく、感情論であることを認められ、もし筆者がサイコロジストたちが臨床能力をもち、社会的な責任が取れる方法を示してくれるならば、理事会へその事を伝達すると言われた。筆者は己を律することはできても、他者を律することはできないのでこの件は放棄し今日に到っている。

もちろん今日ではサイコロジストで医学博士をとった人はたくさんいますが、当時はこういう状況だったのだなぁと思ってしまうわけですよ。で、秋谷氏は学位に代わるものとして医学部でのポストを与えられたのですが…。
その後、順天堂大学心理学グループは我が国におけるロールシャッハ法の研究・実践の一大勢力となりました。そのグループで研究・臨床活動に携わった方々(そうそうたる顔ぶれだと思います)が、「ロールシャッハ法を一定年数経験している心理臨床家が日々の臨床活動をロールシャッハを通じて振り返ってみるのに刺激になる本」としてまとめられたのがこの『ロールシャッハ法を学ぶ』です。
Amazonの紹介文では

本書にはロールシャッハ法が「構造化された面接」であるという立場から、現実の臨床場面で出会う問題を中心に、ロールシャッハ法を通して何ができ、そのために何を、いかに学ぶかが、心理臨床家の教育に力を注いできた監修者とその許で学んだ俊秀たちの経験に即して述べられている。

と書かれていますが、秋谷氏による「臨床教育にもつロールシャッハ法の意義」では「ロールシャッハを学ぶことが心理臨床を学ぶことにつながる」ということが述べられています。
他にも見所(読みどころ?)は多く、あの町沢静夫氏(この人医学部に転向する前は実験心理学徒だったのですね)が「ロールシャッハ・テストの臨床的活用の分類-個人的体験を振り返って-」なんてのを書いていたり、あの『「心の専門家」はいらない』の小沢牧子氏も「ことばとしてのロールシャッハ記号」という文を書いています。氏の文の最後の方では「10枚のカードから10人の援助へ」と、後年の『「心の専門家」は~』につながるようなことも書かれておりますよ。
そんなわけで色々と読むところの多い本です。ロールシャッハ法を学び始めて数年経ったくらいの人たち、あるいは数年間、実践でロールシャッハ法をつかっている人たちに特にお薦めです(そういう人たちはもう読んでるかも?)。
興味のある方はどーぞ。
そういえば先日、秋谷先生を某学会でお見かけしました。相変わらずお元気だなぁと思うと同時に、ああいう方(本当に厳しい人です)には出来るだけ長生きしていただきたいなぁと思いましたよ。

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