心理・精神医学本

下山晴彦・森田慎一郎・榎本眞理子『学生相談必携GUIDEBOOK―大学と協働して学生を支援する』

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しかし今年も下山晴彦氏の多作っぷりは群を抜いているなぁ…とこの本を書店で見かけて思ってしまったワタクシなのです。

ネオリベラリズム化する社会,独立行政法人化する大学,多様化する学生像。2000年代に先鋭化されてきたこれら新たな渦(ストリーム)のなかで,大学学生相談ブレイクスルーの行先はどこに定められるのか。

学生相談をめぐる環境変化にともなって浮上する新たな課題は,学習支援,留学生支援,精神科医療,ハラスメント対策,キャリア支援,多文化カウンセリング,発達障害大学生支援,自殺予防,セクシュアル・マイノリティ支援など領域横断的な多様性を帯び,そして同時に大学学生相談において大学教職員との協働が前提条件であることを求める。

モデルケースとして提示される「東京大学大学院理学系研究科・理学部学生支援室」は,大学教職員の視点を取り込みながら,組織理念の決定から学生支援室の成立・運営までの軌跡を刻みこむ,新しい時代の協働型学生相談モデルの実践例として読み解くことができる。

多様化する学生相談へのニーズと格闘する学生相談スタッフのドキュメントである本書は,実践的支援から育まれた学生相談サバイバル・マニュアルとして,道なき道を行くための里程標(マイルストーン)となる。

出版社の紹介ページでは「推薦の言葉」や「あとがき」の一部が読めますよ。

学生相談必携GUIDEBOOK 大学と協働して学生を支援する - 金剛出版

正直、中身をちゃんと読んだわけではないので何とも言えない部分もあるのですが、個人的に気になったのは本書に書かれているモデルケースが「東京大学大学院理学系研究科・理学部学生支援」であること。

「あとがき」にはこう書かれています。

こうした部局単位のコミュニティを対象とした学生相談活動においては,従来の個別学生のみを対象とする学生相談では経験し難いさまざまな発見がありました。例えば,各部局コミュニティの風土,文化の違いを理解し,それぞれのニーズを把握しながらきめ細かい支援をデザインすることが重要でした。また,部局から相談室への期待として,潜在化した学生の問題をいち早く察知し,コミュニティにフィードバックするなど,アンテナ役割や情報発信機能が求められていることも再認識させられました。

なんというのでしょうか…逆に言えば「部局単位ですら」コミュニティの風土、文化の違いがあり、それゆえ細かい支援をデザインすることが重要である…と。そうなってくると、本書で取り上げられているモデルケースの汎用性ってのはどんなもんなんでしょうかね?

近年、少子化の影響もあり(大学教育の現場にいるわけでもない自分が言うことなんで明確なソースはないですが)ぶっちゃけて言ってしまえば入試偏差値の高い大学と低い大学の格差が大きくなってきているように思われます。ここでいう格差ってのは色んな意味があると思うのですが、それはつまり学生相談で問題になってくるであろう風土、文化というのは大学毎でかなり異なっているのではないでしょうか。

そんなわけで、組織設立やその運営に関してかなり一般化できる部分もあるのかもしれませんが、他の大学に持っていって簡単に使えるという類のものでもないような気がするのです…って、そもそも部局の学生相談を立ち上げるってだけでものすごく難しい話なのでしょうけれども。

…なんて屁理屈をこねくりまわしておりますが、個人的に「第4部 学生相談の新たなテーマ」って辺りは興味もあります。

第13章 グローバル化と多文化カウンセリング 石山一舟
第14章 発達障害の大学生支援 西村優紀美
第15章 自殺予防とインターネット 末木 新
第16章 性の問題と学生相談 石丸径一郎
第17章 サポートステーションからみた学生相談 石川京子

といずれも今日的な問題を扱っていると言えるのではないでしょうか。

そんな感じで「必携」と銘打っているわけですし、学生相談に携わる人は参考にされるとよいのではないでしょうか。

興味のある方は是非どぞー。

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