臨床心理学

重大事件に対して心理学・精神医学の専門家がコメントすることについてもう少し考えてみる

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関連過去ログはこちら。未読の方はまずはそちらをどーぞ。
少年の凶悪犯罪に臨床心理学的立場から言えること(05/02/15)
凶悪事件の犯人の卒業文集を分析(という名の戯れ言)するのはそろそろ止めません?(08/06/10)
講演依頼.com(08/06/13)
さて、08/06/13のエントリ、講演依頼.com【家族心理.com】管理人さんからコメントいただきました。
コメントありがとうございます>【家族心理.com】管理人さん
そちらのコメントに対するレスをしつつ、今一度この件(今回の事件じゃなくて、専門家と言われる人が重大事件に対してコメントすること)について考えてみたいと思います。

特に今回の事件のように、世の中の人にとって「特殊性」よりも「共通性」が際立つ場合、社会の不安は高まりますから、「専門家が出てこず何も言ってくれないこと」の負の効果は大きいんじゃないでしょうか。例えば、男の子は腫れ物に触るように扱ってしまう、等。

そもそもですね、今回の事件は「特殊性」よりも「共通性」が際だっているんですか?なんだかその前提の段階で、既に何らかのバイアスがかかっているような気がするのですが。
今の私は、ワイドショーとかニュースとか見ないし、新聞も読んでないからかもしれませんが(ネット上での情報は追っかけています)、少なくとも現時点で「特殊性よりも共通性が際だっている」という印象は全くないです。「特殊性」と「共通性」どちらが際だつかというのは、結局のところ、情報伝達の仕方による、つまり報道の仕方によるんじゃないですか?
特殊性を強調するか、共通性を強調するかに関して、それを報道する側が自覚しているかしていないかはわかりませんが、とりあえず仮にそういう意図があったとしましょう。もしも専門家が有用なコメントをしたとしても、報道する側の意図で伝わり方が歪曲する可能性があるので、やはりコメントは自重すべきというのがまず一点です。
で、もう一点。
そういうことで不安が高まる可能性があるのならば、その事件についての仮説を垂れ流すこと以外の方法で不安を軽減する道を模索すべきなんじゃないでしょうか?
【家族心理.com】管理人さんがおっしゃるような「男の子は腫れ物に触るように扱ってしまう」恐れがある場合でも、「こうした凶悪事件の背景には様々な要因がからみあっていると思われるので単純な因果論を持ってきて説明することはできない」と説明することがまず第一だと思います。
そして、「事件についてよくわからない」ということがが子育てに対して悪影響を及ぼす可能性があるとしたら、そのこと自体を問題にすべきなのではないでしょうか。本気でこの件で不安になっているのなら、周囲の人に相談するか、それですっきりしないのであればどこか相談機関を使うということも必要になると思います。無責任な仮説を垂れ流す前に、その辺の啓蒙活動が必要だと思いますけどね。
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で、[家族心理.com]管理人ブログの08/06/11のエントリ、秋葉原の事件に思うことを読ませていただきましたが…これもどうかと個人的には思いますよ。
以下、引用していきます。

秋葉原での殺傷事件に世の中の注目が集まっている。どうやら「家族」が犯人の心の闇の一要因でもあるらしい。

「心の闇」なんてわけのわからないものに限らず、どんな人のパーソナリティや行動やまあその他色んな変数には、当然「家族」の影響はあるでしょうね。

報道ではむしろこの加害者の圧倒的な「孤独」が浮き彫りになっています。

そう。「報道では」そこが浮き彫りになっているんですよね。そういう意図での報道なのでしょう。

臨床現場で思うことは、「攻撃と孤独は裏表」ということです。虐待をやめられない母親、非行少年、学校にクレームを言い続ける母親、全てに共通するのが「孤独の闇と戦っている」ということ。

本当にそうなんですか?それって単なる一つの「仮説」でしかないですよね?それが当てはまるケースもあれば、当てはまらないケースもある。単純に「ケースバイケース」ってことなんじゃないでしょうか。

「ああ、またか」と思ったことは、この加害者が育った場所が都会ではなかったということ。

ここのところ起こっている凶悪事件、子ども同士の殺人、親殺し、子殺し、幼児殺人等は、いわゆるのどかな地域で起こっていることが多い。人口の比率から考えると、もう少し都会、いわゆる大都市で起こってもよさそうですが。

えーと、そういうデータがあるんですか?「凶悪事件」の定義にもよるかもしれませんが…もしそうしたデータがあるのであれば、後学のために是非とも教えてください。まさか、【家族心理.com】管理人さんの印象だけで語っているわけではないですよね?

これらの事件の背景には、いわゆる多世代家族や、緊密な親戚づきあい、ご近所づきあいなどが感じられるケースも多い。例えば、神戸の事件、佐世保の事件等。

ついでに「都会」とか「大都会」の定義もよろしければ教えていただけたらと思います。田舎育ちの私なんかにしたら、神戸なんてめちゃめちゃ都会なんですけど…。
つか、神戸の事件って「神戸連続自動殺傷事件」いわゆる「酒鬼薔薇聖斗事件」のことですよね?(違ってたらご指摘ください)あれって、新興住宅地で起こった事件じゃなかったでしたっけ?例えば今どき横溝正史まっつぁおな農村地帯と神戸とかをひとくくりにして語るのは無茶じゃないかと。

佐世保の時と同様に、この加害者の背後に今心理業界で注目の障害の認知的特徴をあてはめて論じる識者もあろうかと思いますが、またそれが要因の一つではあるかもしれないが、安易に因果関係を論じてはいけません。

全くその通りです。同じように「この加害者が育った場所が都会ではなかったということ」を安易に事件と繋げて論じるのもいかがなものかと思います。

「謎」というのは辛いことなので、皆、特に専門家は安易に「診断」を答えにしてしまう。しかし特にカウンセラーは絶対にこれをやってはいけません。

そうなんですよね。結局何か言いたい専門家(自称も含む)は、自分の中で「謎」にしておくのが辛いんじゃないかと思ったりもします。
でも、本来であればちゃんとしたことを言おうと思ったらかなり詳細なデータが必要になってくるし、少なくともここ1週間くらいで、しかも当人から話を聞いたわけでもない人間が事件についてどうこう言うことは基本的にできないと思うのですよね。
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ええと…大きく脱線してしまいました。本来であれば、[家族心理.com]管理人さんのブログにまで言及するつもりはなかったのですが、あまりにも気になってしまったので…すみません>[家族心理.com]管理人さん
[家族心理.com]管理人さんのコメントに戻ります。

専門家といのは「世間の不安を低減させる機能」を求められるという所もありますから、業界で立場のある人ほどその役割を果たしたがらないというのもおかしな話です。

「心理学的地域援助」というのはそういうところを一部で含むかもしれません。で、繰り返しになりますがこうしたケースで「世間の不安を低減」させるにはむしろ「情報が少ない段階では責任のある発言はできないこと」「現時点での情報で何かを述べようとしている人間に振り回されないこと」を知らせていくのがいいんじゃないでしょうか。そして、それでも不安ならば、「その事件について何もコメントがないこと」以外の要因がそこにあるのではないでしょうか?

むしろ妙な輩がしゃしゃりでなくてすむように、臨床心理士会の理事などが代表して意見を取りまとめていただけるといいのになどと思います。まあ、マスコミから依頼が来ればの話でしょうが。

正直、今の段階の情報で何かを言おうとしている時点で、[家族心理.com]管理人さんが言うところの「妙な輩」と[家族心理.com]管理人さん自身の違いが私にはよくわかりません。ぶっちゃけ何が違うのでしょうか?
ついでに、私が講演依頼.com(08/06/13)で取り上げたブログ主は「妙な輩」に含まれるのでしょうか?[家族心理.com]管理人さんもお勧めする家族相談士の資格をお持ちのようですが…。
他の皆様のご意見も引き続きお待ちしております。

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