心理・精神医学本

【ご恵贈】馬場禮子 編著『力動的心理査定―ロールシャッハ法の継起分析を中心に』【感謝!】

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力動的心理査定

ワタクシのハンドルネーム「ロテ職人」とは、「ロールシャッハ・テスト職人」の略でして、今から17〜8年くらい前でしょうか。初めて用いたのは、匿名掲示板「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)でのコテハン(固定ハンドルの略)としてでした。

私の主たる研究テーマはロールシャッハ法を中心とした心理アセスメントです。でもまあ、研究者というよりは日々仕事を黙々とこなす職人みたいなものかなあ…という若干の自虐混じりでつけた名前だったのですが、こんなに長くこの名前を使うことになるとは夢にも思っておりませんでした。

そもそも「ロテ」なんて略称、私は聞いたことなかったですし(だいたい「ロール」とか「ロ・テスト」、私の生息地域界隈では「ロハ」というのもありました)、なんかキャッチーかなと思ったですよ。今ではググった際に「ロテサリーチキン」が混じって出てきたりすることもありますが(正しくはロティサリーだそうな)、もう慣れてしまったのでそれなりに気に入って使っております。

さて、そんな「ロールシャッハ法」に関して、ある種の決定版的な書籍が出てます…と言っても出版日は2017年12月1日…本当に申し訳ありません。もう1年半以上も経過してしまいました。

こちら。

 このたび,ロールシャッハ法を中心とする投映法解釈の学習を長年続けて来たグループのメンバーとともに,心理検査を用いた心理アセスメントに関する一冊の本を出すことになった。その中心になるのは,私が研究と実践を続けて来たロールシャッハ法の解釈である。著者たちは,主に大学院生の時代に私の投映法の授業を受講した人たちで,大学院修了後もずっと同じ研究会で,投映法解釈の事例検討会を続け,今ではそれぞれ指導的な立場にあるベテラン研究者・臨床家たちである。
 私は主としてロールシャッハ法の解釈技法を研究し,それを心理査定全体の中に位置づけながら解釈法を推敲し,さらにそれを教えることを長年にわたって続けて来た。教える相手は次第に広がり,数を増して行った。その間に指導者として私の方法を教えられる人も増え,その人たちもこの方法を教えるようになった。そのようにして広まった私の解釈法は,ふと気がつくと私の手を離れて一人歩きしていた。私の訳語である「継起分析」という言葉がsequence analysis一般を指す言葉として使われるようになっていた(従来,一般的用語は「系列分析」であった)。それだけ広く使われるほどに有用な方法であるなら,これほど嬉しく有り難いことはない。研究者冥利に尽きることである。しかしその一方で,私の与り知らぬところで何らか誤った使い方がされているかもしれないという懸念も起ってくる。
 このような懸念をベテラン研究会で話したところ,それではこの際,精神分析的な心理査定について総まとめする本をこのグループで作り,私の投映法解釈を確認し直そうではないかということになった。本書はそのような経緯から作成されたものである。
 出版の相談を始めた当初は,ロールシャッハ法解釈の解説書を作るつもりであった。しかし,たとえロールシャッハ法のように情報量の多い検査であっても,一つの検査の理解のみで被検者の人物やその病理の描写をすることは不可能である。私たちが常にやっているのは,いくつかの検査の所見,臨床像,さらにできれば被検者の生活状況や成育史に関わる情報を収集し,総合的に判断することである。
 これらの手続きをすべて行わなければ,“心理検査を用いた心理査定"をしたことにはならないのであって,日常の臨床でも,Korchin,S.J.のいうフォーマルアセスメントをする場合には,この手続きがなされている。そこで,書くのならばそこまで,単なるロールシャッハ法の解説書ではなく,パーソナリティ査定および病理査定のすべての手続きを記載し,その中に中心となるロールシャッハ法を位置づけた解説書にしようということになった。
 本書はこのような経緯から生まれた,ささやかながらも力動的心理査定の集大成である。(「序章」より)

出版社の紹介ページでは目次が見られますよ。



で正直なところ、ロールシャッハ法、特に片口法の施行・解釈法を学ぼうと思ったら、片口安史著『新・心理診断法』が一冊あれば事足りると思うのです。ものすごく能力の高い人であれば。

でもこちらの『新・心理診断法』、とにかく読みづらいのです。読み込めば本当に大切なことが過不足なく書かれているのがわかるのですが、初学者が一人で読み通すのは、まず無理だと思います。

そこで今回ご紹介する馬場禮子編著『力動的心理査定―ロールシャッハ法の継起分析を中心に』です。

ぶっちゃけてしまうと、初学者が読んで果たして理解できるかというとなかなか難しいところはあるかもしれません…とは言え、非常に「まとまっている」感があり、中級者以上であればかなり読みやすい本なのではないかと思います。

それはこの本の目的が「『馬場法』というロールシャッハ法のアプローチを体系化する」という明確なものであることに起因しているのではないかと思います。

本書の巻末、執筆者の一人、西河正行氏による「継起分析の基本姿勢―あとがきに代えて」から引用します。

私たちは、ロールシャッハ法とは何かを考えること、データを取ること、スコアすること、解釈を加えること、それら一つ一つに注意深く目を向けてきた。その実践を言語化したものが本書であり、したがって本書は「馬場法」と命名できる体系の一貫した解説である。

つまり本書は、馬場禮子氏と馬場氏が指導してきた研究会のメンバーがこれまで作り上げてきた、馬場氏のロールシャッハ法や投映法、テストバッテリーなど心理アセスメント全般へのアプローチの集大成なのだと言えます。

共著本というとその執筆者ごとの色が出すぎてしまっているという場合もあり、それはそれで面白かったりもします。しかし本書に限って言えば、「馬場法」を噛み砕き消化した共著者の皆さんが分担執筆することで、全体が高い次元で統一感を保っているという印象を受けます。

その意味で興味深かったのは「第6章 テストバッテリーと退行現象」です。この章は「1. テストバッテリーについて」と「2. 退行理論と投映法」の2つの節に分かれており、それぞれの節を別の方が執筆されているのですよね。しかも第1節は共著者の中でもっとも若い人見健太郎氏が、第2節は馬場氏が担当されています。節のつなぎにはこう書かれております。

次節は、ここまでに少し触れた「退行」を中心に述べる必要がある。そこで、純粋なテストバッテリー論からは少し離れるものの、馬場による退行理論についての講義の原稿があり、原稿そのものに馬場の現在の退行についての考えが明瞭に示されており、その鮮度を読者にお伝えするという意味で、あえて加筆・修正していないので、これまでの記述と重複もあるかと思うが掲載する。

もちろん馬場氏の講義の原稿あっての人見氏の原稿ではあると思いますが、馬場氏の論ずる「退行」についての理解が、人見氏の論をその前に読んでいることでより深くなされると感じました。

基本的には力動的・精神分析的な解釈が中心とはなっていますが、その歴史から施行法・スコアリング、量的分析と継起分析、テストバッテリー、パーソナリティ理論、そして所見の書き方まで網羅しております。中級者以上であればマニュアル的に使うことも可能ですし、日々の臨床実践の中で迷った時に参照するのも良いと思います。

ロールシャッキアン(ロールシャッカー?)にとっては間違いく必読の一冊です。未読の方は是非ともポチっとどぞー。

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