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『あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには ’16~’17年版』の著者、浅井伸彦氏はどうすべきだったのか? その2

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あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには '16~'17年版

さて、昨日のエントリの続きです。

未読の方はまずは過去ログからどうぞ。

浅井伸彦 著『あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには ’16~’17年版』を読んでもいないのに批評してみる(16/02/22)
『あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには ’16~’17年版』を読む前に著者の浅井伸彦氏からのメッセージに返信してみる @IPSA_psychology(16/03/03)
『あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには ’16~’17年版』の著者、浅井伸彦氏はどうすべきだったのか? その1(16/03/15)

そして参考リンクも是非お読みください。特に一番最後。著者である浅井伸彦氏のコメントは必読です。

公認心理師の受験資格や経過措置ってもう決まったの?【Reme's News】Reme(リミー)
ご注意!心の国家資格「公認心理師」は細目未定ですアゴラ 言論プラットフォーム
「公認心理師」国家資格に関する私的見解MEDI心理カウンセリング大阪

さてさて、昨日は「読者に誤解を生じさせる可能性があるため、現時点で『「公認心理師」になるためには』なんて本を出すこと自体がNG」「結局、この本ってあからさまな(筆者自身のサイトや予備校への)集客目的だよね」という話をさせていただきました。

本日は浅井氏の「私的見解」にある、「B2.公認心理師というまだ”イロ(色)”がないものに、心理学の多様性を持たせるとっかかりとして」の部分に触れていきたいと思います。

”イロ(色)”って何さ?

浅井氏の言うところの”イロ(色)”。「B2.公認心理師というまだ”イロ(色)”がないものに、心理学の多様性を持たせるとっかかりとして」という文言を読んだだけでは全く意味がわかりませんね。

そんなわけで本文から引用させていただきます。

「臨床心理士」という資格のイメージは、一般に対して、理論としては精神力動系のイメージが色濃く、そこにロジャーズのパーソン・センタードアプローチ(あるいは来談者中心療法)による”傾聴”イメージが付随しているように思われます。その他、認知行動療法や家族療法、ブリーフセラピー、対人関係療法、EMDRといった理論的イメージはほとんどありません(臨床心理士自身ですら、そうかもしれません)。

…えーと、いつの時代の話をされているのですかね?

15年、20年前ならまだしもここ数年の業界の状況を考えると、そうした見方、捉え方自体が時代遅れなものであると言わざるを得ません。そういう「狭い」「古い」臨床心理士観をお持ちの方もいるかもしれませんし、実際のところ自分の専門領域については当然のことながら深いレベルで修めているのは当然ですけれども、自分の専門以外の領域についてもまたその道の専門家がいるのはほとんどの人が知ってると思うんですが。

とりあえず浅井氏の周りはそうじゃなかったのかもしれませんが、まあそれは不幸ことであり、それを過度に一般化するのはいかがなものかと思われます。

 とはいえ、精神力動系や人間性心理学を否定するわけでは全くありません。「公認心理師」という国家資格では、「理論的立場や心理療法には多様性がある」ということを知ってもらえるきっかけにしたいと考えています。そのことによって、「ちょっと合わないかも」と思った方が、そこでカウンセリングを受けることを諦め、やめてしまうことなく、自分に合った心理療法・セラピストにアクセスできるような世の中になればと願っています。

このあたりからもう壮大にズレてる感が出てきております。

クライエントが「ちょっと合わないかも」と思ってドロップアウトすること、あるいは受けるのをためらうことの原因を「理論的立場や心理療法には多様性がある」ということを知らないからということに帰属するわけですね。

受けるのをためらうのは「理論的立場について知らないから」ということよりも「カウンセリングや心理療法を受けることに対してどんなイメージを持っているか」ということの方が影響が大きいでしょうし、ドロップアウトについては単純にその臨床家の力量によるところが大きいと私なんかは思うんですが、少なくとも浅井氏は異なる考えをお持ちのようです。

想定される読者は誰?

さらに引用を続けます。

 インターネットを用いた情報社会となり、その情報をどのように扱うかは、利用者側のリテラシーに左右されてしまいがちです。一般の方々が、「心理療法の多様性」に関する情報に、平等に触れる機会を作るには、国家資格の創設というこの時期を逃してはいけないと考えました。唯一素晴らしい心理療法というものは存在しません。

「唯一素晴らしい心理療法というものは存在しません」ということには同意します。

で、「一般の方々が、「心理療法の多様性」に関する情報に、平等に触れる機会を作る」というあたりが、浅井氏の言うところの”イロ(色)”をつけていくということになるんですかね?

そうだとすると、以前のエントリ、『あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには ’16~’17年版』を読む前に著者の浅井伸彦氏からのメッセージに返信してみる @IPSA_psychologyでも書きましたが、公認心理師資格取得希望者向けの本ではなく、クライエント向けの本に書けばいいのでは?と思うんですが。

私の中で「一般の方々が、「心理療法の多様性」に関する情報に、平等に触れる機会を作る」というお題目と、この『あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには `16~`17年版』のp.66〜71の数ページにどこからかコピペしてきたような各種心理療法の紹介が掲載されていることとが、論理的に全く結びつかないんですよね。

これ、一体誰に向けた本なのでしょうか?

…と考えていくと

ただ、「多様な心理療法の選択機会を提供し、その中から利用者自身に選んでもらう」 ということを進めていきたいと考えています。

このご大層なお題目がとってつけたような物にしか思えなくなってしまいます。

何でこの本をあなたが書いているの?

そういえば、浅井氏の「大きな葛藤」としてこんなこともあったそうな。

A2.公認心理師という国家資格に関する本を、自分のような立場で刊行することの是非

この「大きな葛藤」はどう解決された上で刊行に至ったのでしょうか?

そしてこんなことも書かれておりますね。

もちろん、全ての心理療法に対し”完全に平等”に伝えることはできません。やはり、これまで同様、声の大きい(数の多い)理論的立場が最も目立つでしょう。また、どうしても執筆する者の好みによって左右される部分はどうしても出てきてしまいます。ただ、思いとしては、多様性のある心理療法をできるだけ平等に伝えたいところです。

本気でそう思っているのならば、その「大きな葛藤」を解決する簡単な方法はありますよ。

その方法、ご存知なさそうなので教えて差し上げましょう。

自分の専門分野以外の領域については、その道の専門家に書いてもらう

これだけです。「分担執筆」にすればいいだけの話です。

各領域の専門家で分担執筆すれば「声の大きい(数の多い)理論的立場が最も目立つ」「どうしても執筆する者の好みによって左右される部分はどうしても出てきます」といった問題は簡単に解決します。

こんな簡単なこと、浅井氏は思いつきもしなかったのでしょうか?

そしてここで浅井氏に問いたいと思います。

浅井氏は公認心理師資格に関する専門家なのですか?と。

著者の浅井氏はどうすべきだったのか?

この本を送っていただいてから色々と考えたんですよ。

もし自分が浅井氏の立場だったらどうしたかなあ」と。

本の企画が出版社側からのものだったのか、浅井氏自身からのものだったのかはわかりませんが、とりあえず自分だったら前者の場合は断りますし、後者の場合はそもそも思いついても実行はしないと思います。

ただ、どうしても刊行せねばならず本気でこの本を有意義な内容にしたいと思ったら、おそらく資格問題の専門家に執筆をお願いします。

資格問題の専門家はたくさんいるはずです。

日本臨床心理士会や日本心理臨床学会で資格問題に長く関わってこられたベテランの先生はたくさんいますし、その他のいわゆる三団体にもエキスパートは多いでしょう。

もしベテランだけではなく、若い臨床家の意見も聞きたいということであれば、公認心理師推進ネットワークのメンバーであれば、公認心理師法の成立のために実際に活動されてた方や法案についてしっかり読み込み勉強し、それこそ研究してる方もいます。

ただ、その企画を提案したところでおそらくまともな専門家は現時点でこの手の本を刊行しようとは思わないでしょう。その理由はすでに何度か述べているのでおわかりいただけているかと。

とにかく、私は浅井氏は自分で書くのではなく、専門家の手に委ねるべきだったと考えます。

そうしなかった理由は…簡単ですよね。自分が書かなければ、浅井氏に利益が全くないからです。

利益を求めることを否定はしません

我々心理臨床家が、自身の専門性を高めるために研鑽し続けるのは、とにかくお金が必要です。

それ以外の日々の生活であったり、家族を養うためであったり、利益を求めることは当然のことだと思います。

ただそれは「心理臨床家あるいは研究者として自分の得た専門知識や専門技術を用いて」ということが前提となります。

したがって、今回の浅井氏のように、ネットの情報のコピペで書けるような志の低い本については非難(批判ではありません)されて当然でしょう。

これほどの短期間で刊行に至ったこと、ご自身で運営されているサイトや予備校の情報への誘導に使っていること、そして専門家の手に委ねるのではなく単著で刊行されたことなどから、この本は「先行者利益」を求めることしか目的がないというのが明白です。

“「先行者利益」を求めること”が問題なのではなく“「先行者利益」を求めることしか目的がない”のが問題なのです。

おわかりいただけましたでしょうか?

本の感想は終わりましたがまだまだ続きます

今回の件で、浅井氏の周辺のことをネット上でわかる範囲で色々調べてみましたが、その中で以前ご紹介したオンラインカウンセリングのcotreeさんんのカウンセラーとして彼が登録していることを知りました。

メンタルヘルスケア事業者の集まりにお招きいただいて自分とネットとケアとの関わりについて改めて考えてみた(前編)(15/10/16)
メンタルヘルスケア事業者の集まりにお招きいただいて自分とネットとケアとの関わりについて改めて考えてみた(中編)(15/12/08)
メンタルヘルスケア事業者の集まりにお招きいただいて自分とネットとケアとの関わりについて改めて考えてみた(後編)(16/01/07)

あと私がその立ち上げや企画にちょこっと関わっているReme(リミー)さんでも、浅井氏が色々書いてたりするわけです。

今回の件を通じて、これらのネットサービスに関しての私の認識に変化があったのですが、これまた長くなりそうなので別エントリで述べたいと思います。

引き続き皆様のご意見もお待ちしております。

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