臨床心理学

杉田貴行って誰?-研究計画書サンプルへのツッコミ-

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こんなブログみつけました。
杉田貴行
自分の名前をブログタイトルにするってのは珍しい…てか本名ですか?
自己紹介を見ると…

認定心理士、精神保健福祉士、社会福祉士、などの資格があり、現在、日本編入学院大阪校で、常勤講師(心理英語、心理専門、研究計画書指導、論文指導、社会福祉)をしています。

だそうですが…本名&勤務先を晒してたりすると書く内容にはかなり気をつけた方がいいと思いますよ。だって、専門分野に関して下手なこと書いたら、それは勤務先の名前を傷つけることになるじゃないですか。
で、06/07/08のエントリ、臨床心理研究計画書サンプル1ではタイトル通り、研究計画書のサンプルが提示されております。
えと…これはお手本じゃないですよね?てか悪い見本?
ちょっとだけツッコミ入れてみたいと思います。

近年“キレやすい生徒”という言葉に象徴されるような犯罪行為や暴力行為など、学生の問題に社会的関心が集まっている。筆者は、資格専門予備校の相談室やその他の場面で大学生に触れる機会を多く持ったことから、相談機関へ来談しない大学生でも,深い悩みを抱えていることを実感し,大学生の精神的健康について興味を抱いた。

たぶんこれは大学院入試のための研究計画書のサンプルなのだと思いますが、こういうのに自分の個人的経験を書くのってアリなんですか?わたくし的には却下のような気が…いかがでしょうか?>皆様
個人的経験はあくまでも個人的経験でしかなく、研究の意義や問題意識の発端としてはもっと書くべきことはあるのではないかと思うわけで。

従来、子どもの精神的健康の研究では、親子関係、母子関係や父子関係が対象となることが多かった。しかしMinuchin(1996)は、家族を夫婦・親子・同胞などの“サブシステム”の相互関係によって成り立つ、1つの有機的な“家族システム”と捉えることに注目している。この理論に立つと,家族関係のもう一つの重要な構成要素である父母関係を含めた、大学生の精神的健康についての実証的研究は有意義である。

「もう一つの」って?なんか文脈的には「父母関係」も“サブシステム”なわけですよね?前でその説明はしているのに「もう一つ」って何か変じゃね?サブシステムの中で重要な構成要素なのは「父母関係」だけじゃないですし…それとも何か他の意味がある?私の読み間違いですか?

このように、子どもの精神的健康と父母関係についての研究では、これまで両者間に関連性が認められているものの、因果関係については不明な点が多い。近年では,両者間に媒介変数を考慮することで因果関係を見出そうとする傾向がある

「このように」は何を受けて述べているんですか?これまでの子どもの精神的健康と父母関係の研究についての意義は前で述べていますが、具体的な研究結果や知見については述べていないので「このように~認められているものの」とは言えないのでは?
で、私は統計に詳しくないのでわからないのですが、媒介変数を考慮すれば因果関係を見ることができるのですか?媒介変数を入れたところで、あくまでも関連性は関連性であり、因果関係とは言えないのではないでしょうかね?

さて、神経症性うつ病( neurotic depression )とは、内因性でも体験反応性でもないうつ病の一つで、抑圧された神経症性葛藤に原因のもとめられるうつ病。

文末に「である」ぐらいは入れようよ。

内容的には、抑うつ神経症(depressive Neurose)とほとんど変わらない。

この文は不要でしょう。

幼児期に葛藤状況があり、それが多少とも抑圧されて心的体験の加工に影響を及ぼし、病者はこの葛藤状況に関連した一連の観念ないしは状況と対決できないため悲哀感を生じ、うつ状態を示す。

「神経症性抑うつでは」とか「神経症性抑うつの患者においては」とか文頭に入れた方がいいですね。
以下の説明については割愛。長いし。

これらは要するに神経症性葛藤に原因があるとされるうつ病の意味での神経症性うつ病であるが、しばしば概念上心因性うつ病、反応性うつ病と厳密に区別されず使用される。なお米英圏では、神経症性うつ病というとき、精神病性うつ病に対置して、精神病レベルに至らず神経症レベルに止まる軽症のうつ病をさすことがある。

「これらは要するに」って言う必要ないでしょう。上では「神経症性うつ病」の説明をしているわけだから。「神経症性うつ病はしばしば概念上~」と最初から書くべき。「なお~」以下は余談なので不要ですしね。てか、この段落自体が不要では?

以上より本研究では,大学生の精神的健康の指標として「抑うつ傾向」と「攻撃性」を取り上げたい。また親子関係を媒介変数として取り上げることにする。そして「子どもが認知した父母関係が、子どもの母子・父子関係の認知に影響し、それらを媒介として子どもの抑うつ傾向に影響するとすると仮定する。また子どもの母子・父子関係の認知が直接,または抑うつ傾向を媒介として,攻撃性に影響を与える」という仮説についても検討する。

えーと…なんか「攻撃性」が突然出てきているんですが、これは何ですか?
関連しそうなのは「厳しい拒絶」ですが、「厳しい拒絶=攻撃性」ではないでしょう。
また、これらの仮説が導きだされるその根拠が全くわからないんですが…私がアフォなだけでしょうか。誰か教えてください!

前述の仮説に基づき,次の2つの因果モデルを構築しパス解析を行う。

前述の仮説がどこから導きだされてきたのか(特に攻撃性について)不明であり、この程度の理論的根拠では因果モデルの構築は難しいでしょう。
KRの第1巻第4号では【パス解析大流行に思う】と題して

パス解析で「因果関係を説明できる」かのように記述するのは間違いなのではないか?(たとえば、平論文「それを因果的に説明するパス解析を行った。p.140」)まず、因果関係が想定できることをいろいろな論拠に基づいてしっかりと示した上で、想定された因果関係を量的に計算してみるというのが、パス解析の使い方だと思うのだが、この解釈は間違っているのだろうか?

と書かれておりますが、この研究計画書だとやはり「因果関係が想定されること」は未だ示されていないような気がするのです。
で、最後の「議論」ですが、これは「問題と目的」の中に入れるべきなのではないかと思いますがどうでしょうか?
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私程度の人間がちょこっと見ただけでこれくらいツッコミが入ってしまうこの「サンプル」は何のためにアップされたんでしょうね?やっぱりダメな例なのでしょうか?そもそもその意図が全く書かれていないのでこれ以上は何も言えないのですが、少なくとも下手なものを載せてしまうのは自分の名前だったり、職場だったりに傷がつく可能性は否定できないですよ。
…というのをトラックバックして送った時点で無断で消去されるのも何なんで、以下に全文コピペしておきましょうかね。
皆さんの感想もお聞かせくださいませ。
ついでにこの本も再度ご紹介。

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心理の分野の本ではありませんが普遍的な内容だと思いますので、ご参考にどーぞ。
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(コピペここから)

大学生における精神的健康と親子関係との関連
―抑うつ傾向と攻撃性について―
杉田貴行
問題と目的
近年“キレやすい生徒”という言葉に象徴されるような犯罪行為や暴力行為など、学生の問題に社会的関心が集まっている。筆者は、資格専門予備校の相談室やその他の場面で大学生に触れる機会を多く持ったことから、相談機関へ来談しない大学生でも,深い悩みを抱えていることを実感し,大学生の精神的健康について興味を抱いた。
従来、子どもの精神的健康の研究では、親子関係、母子関係や父子関係が対象となることが多かった。しかしMinuchin(1996)は、家族を夫婦・親子・同胞などの“サブシステム”の相互関係によって成り立つ、1つの有機的な“家族システム”と捉えることに注目している。この理論に立つと,家族関係のもう一つの重要な構成要素である父母関係を含めた、大学生の精神的健康についての実証的研究は有意義である。
このように、子どもの精神的健康と父母関係についての研究では、これまで両者間に関連性が認められているものの、因果関係については不明な点が多い。近年では,両者間に媒介変数を考慮することで因果関係を見出そうとする傾向がある
さて、神経症性うつ病( neurotic depression )とは、内因性でも体験反応性でもないうつ病の一つで、抑圧された神経症性葛藤に原因のもとめられるうつ病。内容的には、抑うつ神経症 (depressive Neurose)とほとんど変わらない。幼児期に葛藤状況があり、それが多少とも抑圧されて心的体験の加工に影響を及ぼし、病者はこの葛藤状況に関連した一連の観念ないしは状況と対決できないため悲哀感を生じ、うつ状態を示す。多くの場合病者の親子関係が障害されており、やさしさ、庇護性、信頼性、安全性などの欠如、あからさまな拒絶、厳格すぎること、残忍、粗野、放任などがみられる。また性のタブー視、不安を掻き立てるような甘やかし教育、家族間の冷たい戦争などが、抑うつ的神経症的発展を生ぜしめやすい。はっきりした抑うつ状態が現われるまでに、一連の神経症的橋渡し症状(精神的には制止、自己不確実感、不安、根気のなさ、精神身体的には吃り、爪噛み、夜驚症、夜尿など)が先行し、それは幼児期まで遡及しうる(幼児神経症)。ときどき機能的器官障害への移行もみられる。抑うつ状態の分析から葛藤状態にまで遡っていくと、病者においては、飽くなき依存欲求と過代償的に厳しい拒絶が並存していることがわかり、病者の人格的努力や体験にはっきりした分裂がみられる。本病における抑うつ気分は、外部の状況によって容易に影響され、そのため、状態像はまとまりの無い曖昧なものとなり、病像全体が内因性うつ病のそれのようなまとまりをもたない。発病の契機としては思うようにものごとがいかないとか、なにか新しく企て、試みねばならないとか、試験を受けねばならないとか、なにか無理をして努力せねばならない状況、または生物学的危機がある。うち克ちえない困難に遭うごとにうつ状態は悪化する。それゆえ経過は動揺的でなおりにくい。自覚的には、気分の変動は自我と異質的に感じられ、病者は途方に暮れ絶え間ない気分の上下に悩む。年齢的には十代後半から二十代半ばにかけての若年群と、初老期・更年期になって生じる更年群がある。
これらは要するに神経症性葛藤に原因があるとされるうつ病の意味での神経症性うつ病であるが、しばしば概念上心因性うつ病、反応性うつ病と厳密に区別されず使用される。なお米英圏では、神経症性うつ病というとき、精神病性うつ病に対置して、精神病レベルに至らず神経症レベルに止まる軽症のうつ病をさすことがある。
以上より本研究では,大学生の精神的健康の指標として「抑うつ傾向」と「攻撃性」を取り上げたい。また親子関係を媒介変数として取り上げることにする。そして「子どもが認知した父母関係が、子どもの母子・父子関係の認知に影響し、それらを媒介として子どもの抑うつ傾向に影響するとすると仮定する。また子どもの母子・父子関係の認知が直接,または抑うつ傾向を媒介として,攻撃性に影響を与える」という仮説についても検討する。
方法
調査対象は,A府B大学の生徒200名(男子100名,女子100名)。用いた質問紙は,抑うつ傾向を測定するCES-D Scale日本版(20項目),攻撃性を測定する日本版Buss-Perry攻撃性質問紙(24項目)、母子・父子関係の認知を測定する母子関係尺度・父子関係尺度(各15項目)、父母関係の認知を測定する父母関係尺度(16項目)、合計200名分の調査結果を分析に使用する。前述の仮説に基づき,次の2 つの因果モデルを構築しパス解析を行う。
(1)親子関係が子どもである大学生の抑うつ傾向にどのような影響を与えるのかを明らかにすめために、父母関係が、母子・父子関係にそれぞれ影響を与え、それらを媒介として抑うつ傾向に影響を与えるモデルがなりたつかどうかを確認する。(2)父母関係が、母子・父子関係に影響を与え、これらを媒介として抑うつ傾向と攻撃性に影響を与えているかどうか。また同時に母子・父子関係が抑うつ傾向を媒介にして攻撃性に影響を与えているモデルが存在するかどうかも確認する。これら2つのモデルを検証する。
議論
父母関係と子どもである大学生の精神的健康との関連メカニズムを検討した結果,親子関係を媒介変数として考慮することでパスモデルが適合するだろうか。大学生が父母関係を良好であると評価すると,自分と両親との関係も良好なものであると評価する傾向が明らかになるだろう。その結果、家族に対して信頼や安心感を抱くことができ、抑うつ傾向や攻撃性が抑えられると考えられる。ここで注目すべきことは、親子関係のうち、特に父子関係が重要な意味を持つことである。更に女子においては、父子関係だけでなく母子関係も重要な意味を持っているだろう。
本研究では大学生の認知の側面に注目したことから,Minuchin(1996)の外的な対象関係だけでなく、父母関係や親子関係の評価などの内的対象関係が、子どもである大学生の精神的健康に影響を与えていることが明らかになることだろう。
以上から大学生の抑うつ・攻撃性へ対応する際、子どもである大学生が父母関係をどう認知・評価しているかに注目することが有効と考えられる。臨床場面では、大学生の抑うつや攻撃性に対応するだけでなく、父母関係や親子(特に父子)関係の認知をアセスメントすることの重要性を示唆している。特に大学生女子のクライエントと関わる際は、母子関係の認知についてもアセスメントするとより有効な情報が得られると推測された。これらの認知が不良であるなら、本人への対応と並行して、親への働きかけも有効となると考えられる。本知見は、今後の学生指導や大学生の両親への啓蒙活動においても援用可能性があるであろう。
(コピペここまで)
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