まったりねこさん(@neko7henge)のつぶやきから
本日、まったりねこさん(@neko7henge)がTwitterにてこんなことをつぶやいてらっしゃいました。
英国やアメリカの例から「心理職はPhD水準が理想」という意見があるけれど、実際博士課程を出て臨床をしている人の実感(博士課程修了の何がどう臨床業務に貢献できているか)を聞いてみたい。
— まったりねこ (@neko7henge) 2014, 1月 26
私の最終学歴は博士後期課程中退なんですが、私の経験に基づいてまったりねこさんの疑問について考えてみたいと思います。
ぶっちゃけ臨床業務には貢献しない
いきなり前提を覆すのも何なんですが、私は「博士課程修了という経歴は臨床業務には貢献しない」と思っております。
なんでそう考えるか?それは私が優秀な臨床家ではないからです(修了ではなく中退ですけど)。
…というのは半分冗談で、半分本気です。
私は研究者志望でしたので(だから今も研究者(自称)なのです)、博士後期課程に進学しました。
現在、臨床心理士指定大学院が出来たことで、修士課程(博士前期課程)というのは「研究の場」としての意味を急速に失いつつあります。それに対して博士後期課程は、未だに「研究の場」であり続けていると思います。
「研究能力は臨床能力にフィードバックされうる」という意味では「博士修了は臨床業務に貢献する」とも言えるのですが、しかし研究の場であるはずの博士後期課程が臨床業務に貢献する(臨床能力を高める)とは考えにくいです。
心理職の条件をPh.D.にする利点
ただ、心理職の条件をPh.D.にすることで色々と利点はあります。それについて改めて以下に箇条書きしていきたいと思います。
利点その1:心理職の数の増加を抑えられる
実は最大の利点はここかもしれません。
現状では、心理職の供給は需要をはるかに上回っていると思います…いや、厳密に言えば需要は高いのですが、それは「心理職に対する需要」ではなく「優秀な心理職に対する需要」です。
修士課程を修了したばかりの心理職(見習い)が「優秀な心理職に対する需要」を満たすのは難しいでしょう。
この現状を打開する一つの方法は心理職の数を減らすこと、もしくは増加を抑制することです。
恐らく一時よりは落ち着いているとは言え、志望者はそれなりにたくさんいる中でどうやって増加を抑制するか…簡単なのは心理職になるための条件を厳しくすることです。
Ph.D取得というのは分かりやすく厳しい条件です。
利点その2:研究能力の向上を図ることができる
「研究能力が臨床能力にフィードバックされうる」という考えに対しては色々と反論のある方もいらっしゃることでしょう。
ただ「(「研究する場」である)博士後期課程で(それなりにやるべきことをやれば)研究能力が向上する」ということに反論のある方はそれほどいらっしゃらないと思います。
もちろん、研究するモチベーションと(学部・修士課程で培われた)基礎的な研究能力を持っていることが前提となりますが。
心理職の業務に「研究」が含まれるのであれば、それは仕事にも活かされると言えるでしょう。
利点その3:学生として臨床のトレーニングに時間をかけられる
修士課程(博士前期課程)修了後、博士後期課程に進学するということは、つまり学生である期間を3年間延長するということになります。
おそらく、博士後期課程の学生は臨床業務で外勤などもしていると思いますが、それでも「まだ学生である」というある種の免罪符を持つことはできるわけです。
博士後期課程の3年間は、研究をしなければならないとは言え、当然、臨床のトレーニングもできます…というか、臨床心理領域での研究をするならば、臨床実践でのトレーニングは必須だと思います。
そういう意味で、単純に修士論文を書いて修士課程を修了後、心理職としての業務を行うよりも、トレーニングには時間をかけることができます。
ではなぜ「修士課程修了」が条件となるのか
昨日のエントリ、日本臨床心理士会の「国家資格化をめぐるQ&A(2)」でもっとも気になったことでも触れたのですが、現行の臨床心理士、そして(日本臨床心理士会が考えるところの)新しい国資格、心理師(仮称)は「大学院修士修了の6年間の養成を基本」としております。
臨床心理士の場合、その業務に「研究」が含まれるからこそ「修士課程修了」が条件となっているわけですが、心理師(仮称)の業務に「研究」が含まれないのだとしたら「修士課程修了」なんて面倒な条件をつける必要はないと思います。
むしろ専門学校的に技術をみっちりと教える課程を作ればいいんじゃないかと思います。学部+2年の専門学校課程でもいいですし、何だったら6年一貫の専門学校でもいいんじゃないでしょうか。
Ph.D.を条件とするための条件
もし心理職の養成課程にPh.D.が必須と主張するならば、その理由を明確に述べねばならない…というのは、冒頭のまったりねこさんと全く同じ意見です。
その理由というのは「諸外国がそうだから」ということではありません。
「なぜ心理職に研究が必要なのか」「臨床能力と研究能力はどう繋がるのか」を明確に述べるということです。
そして私は、Ph.D.を条件とするのはあまりにも非現実的だと思っています。そう考える理由については以下の過去ログをご覧ください。
・7年前に私が考えた理想の臨床心理士養成課程(13/10/21)
上記3つの利点があるとは言え、それを条件とするのは現実的に不可能でしょう。
「不可能ではない」と主張される方がいるのならば、それを実現するための現実的なプランを示していただければと思う次第であります。
専門学校でいいでしょ?
繰り返しますが、単に訓練期間を延長するだけならば、博士後期課程である必要は全くありません。
専門学校を作ればいいだけです。
…私の言ってること、極論ではないと思うのですがどうなんでしょうかね?