研究と臨床 臨床心理学

非心理系学科卒で臨床心理士指定大学院に入るのに心理系学科への編入・学士入学は必要か?

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研究計画書の考え方

読者の方のメッセージから

先日、読者の方からメールフォームにてメッセージいただきました。ありがとうございます。

いただいたメッセージの主旨をまとめますと、非心理系学科卒(隣接領域ではありますかね)で臨床心理士を目指している方なのですが、当初、指定大学院の受験を考えていたところ、当ブログを読まれて「それでは知識も技術も不足するのでは」と考え、学部3年への編入を考えてらっしゃるとのこと。…えーと、なんかすんません。

それで、将来的には「修士、博士と勉強していこう」と考えているそうです。

そして、非心理系学科卒で臨床心理士志望の場合、「学部3年編入から大学院のルートで勉強量が足りるのか、学部1年生から入り直さないといけないのか」を記事にして欲しいとのリクエストいただきました。

私の個人的考えでよければいくらでも書いちゃいますよ。

そしてこの質問は、現在も熱い議論が交わされ、そして現実、政治マターとしても動いている「公認心理師」資格の養成課程の問題ともリンクしていると思われますので、考えていきたいと思います。

編入も学士入学も「必要」ではないと思います

いきなり回答を書いてしまいました。繰り返しますが編入も学士入学も「必要」ではないと思います。

ただ、「した方がいい人もいる」と思います。そこはケースバイケースだとも思います。いやー、ケースバイケースって便利な言葉ですよね。

そんな言われても「自分にとって必要かどうかわからない」とおっしゃっる方、いますよね。

ご自身は編入学が必要かどうか、どう判断するかと言いますと基準は2つあると思います。

一つ目は「指定大学院の過去問に対応可能か?」ということです。

大学院へ入るための知識は身についているか?

大学院志望者であれば過去問は持ってますよね?

それぞれの大学院で過去問の取り扱いに関しては色々と事情が異なると思いますので、持っていない方は大学院の入試担当部署に問い合わせてみましょう。恐らく入手方法は教えてくれるはずです。

そんなこんなで過去問を入手したら、とりあえず直近の過去問を一通り解いてみましょう。…さて、どれくらい解けましたか?

全く解けなかった場合。これはまあ普通にあることだとは思います。自分だけで勉強して(あるいは予備校や通信添削教材など使ってもいいですが)その知識量の不足を埋める自信があるかどうか、考えてみましょう。

それで行けそうならば、心理系学科への編入・学士入学は不要だと思います。

自信がないのであれば、編入・学士入学を考えてみましょう。ただ、それをされたからと言ってその知識の不足を必ず埋められるわけではなく、そこはご本人次第だということは言うまでもありません。

個人的には金銭的な面から考えて編入・学士入学はコストパフォーマンスは悪いと思います(そういう意味では大学院予備校もそうだと思いますが)。ただ、それで意図しない浪人を回避できるのであれば、そのコストも致し方ないというところでしょうか。

研究論文作成のための基盤はできているか?

そして、編入・学士入学が必要かどうか判断するための基準の二つ目。それは「研究計画書が書けるかどうか」ということです。言い換えてみれば、「臨床心理学の研究論文作成のための基礎・基盤ができているかどうか」だと思います。

学部卒後何年が経過しているかはわかりませんが、卒論は書かれたことはある方なのでしょうか?卒論を書いたことがあるとして、例えばご自身が今、興味・関心のある分野の研究論文はどの程度読んだことがあるのでしょうか?

今回メッセージをくださった方の場合、隣接領域とは言え恐らく学問分野的に研究として実験や調査はなかなか難しいのではないかと思います(私のイメージの話で実際のところはわからないので、実情は違うかもしれません)。それでも、卒論をやっていれば少なくとも文献研究はしたことがあるのだということになります。

そして、大学院に入る際には研究計画書が必要になります。指定大学院入学を希望していたならば、研究計画についても考えたことはあると思います。その研究計画は修士論文レベルで可能な内容だったのでしょうか?

「そもそも心理学の研究がどんなものなのかわからない」ということでしたら、例えば関心のある分野の専門書の参考文献や引用文献のページを見てみましょう。その中に、学術誌の論文が含まれているはずです。もし参考文献のページがないとしたら、それは専門書としてはどうかと思います。

大学によっては卒業生が図書館を使えたりするサービスもあるはずですので、論文には比較的アクセスしやすいのではないかと。ただ、事例研究の場合(あるいは臨床系の雑誌の場合)、守秘義務がらみで図書館では閲覧不可だったりするかもしれません(それも論文にしてる段階で公表しているわけでどうなの?と思ったりもしますが)。

それで、論文を読んでみてその内容が理解出来るかどうかってところが問題でしょうかね。実験・調査に関する論文が全く理解できないということであれば、その時点では研究計画書を書くのは無理なんじゃないでしょうか。

心理職に就くために学部での心理学教育は必須なのか?

ここで根本的なことを考えてみたいと思います。心理職に就くために学部での心理学教育は必須なのかどうか?ということです。

現状の臨床心理士指定大学院制度では、資格取得の要件として学部の専門分野は問わないということになっているはずです。

他方、現在議論されている公認心理師の養成課程については、法案の詳細は確定していませんが恐らく学部で所定の単位を取得することが要件になるようです。

「学部卒」という条件自体も大きな問題なのですが、一部の方は「心理系の学部卒」ではなく「心理系の所定の単位を取得すること」が要件となることを危惧されています。それはつまり、非心理系学部・学科であっても心理系学部の単位さえ取ってしまえば受験資格が得られるということです。

その点に関して言えば、単に(心理系での)卒論を単位要件に入れればいいだけなんじゃないかとも思うんですが、そんな単純な問題でもないんですかね?

正直なところ、大学院教育さえしっかりしていれば、つまり大学院で研究指導もきちんと出来て、かつそれなりの内容の修士論文が書けるのであれば、学部での心理学教育は「必要」ではないのではないかと私は思います。ただ、学部でも心理学をやっていた方が確実に有利だとは思います。

それは、これまで何度も書いていますが、臨床系以外の知識であっても臨床心理学系の修士論文を書く場合に利用できる内容は多いと私は考えるからです。

それでも、科学的な研究の方法論が身についていて、そして心理学に関するそれなりの知識(学部教育で得られる程度の)を持っていれば、非心理系の学部・学科出身で何も問題ないと思います。あの故河合隼雄氏だって、学部は理学部数学科ですからね。

質問してくださった方へ残り2、3のアドバイス

そんな感じで、質問してくださった方におかれましては、あとはご自身でご判断いただければいいのではないかと思います。

あと残り2、3のアドバイスです。

今回質問のメッセージをくださった方は修士課程の後、博士課程への進学も示唆されておりましたが、その理由は何なのでしょうか?

職業として「臨床心理学者」を目指すのであれば博士課程への進学は必須かと思いますが、現在の日本の大学院制度の中で臨床家を目指して博士課程へ進学するのはあまりオススメしませんというか、意味がわかりません。逆に、将来研究者になりたいと思っているのであれば、現時点でそれなりの研究計画書も書けるレベルにあるのではないかとも思います。

臨床家を目指すにあたって、博士課程修了者の方が修士課程修了者よりも優れているということはないと思いますので、その辺りは整理されるのが吉かと。

あと、「修士、博士と勉強していこう」とも書かれておりましたが、これについては以下の過去ログをお読み下さい。

大学院入試の面接で「○○を学びたい」と発言するのは良策なの?(14/01/17)

博士課程までいって「○○を勉強したい」はNGワードだと思います。お気をつけくださいませ。

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こんな感じでいかがでしょうか?ご要望に沿う内容になっていますでしょうか?

このブログを読んでくださっている皆さんの中で、私に書いて欲しい内容のリクエストがありましたら、メールフォームからどんどんご要望をお伝えいただければと思います。

私に答えられる内容であれば、記事にさせていただきますので。

今後ともよろしくお願いいたします。

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