心理・精神医学本

『心理学・社会科学研究のための調査系論文の読み方』を再度ご紹介してみる

更新日:

08/07/08のエントリ、【かゆいところに】心理学・社会科学研究のための 調査系論文の読み方【手が届く】でご紹介したこの本。

心理学・社会科学研究のための 調査系論文の読み方 心理学・社会科学研究のための 調査系論文の読み方
浦上 昌則

東京図書 2008-07-04
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ご紹介した時点ではAmazon.co.jpでは「2点の在庫があります」となっておりまして、エントリをアップした数時間後には「通常2~3週間以内に発送します」になっておりました。ご紹介した本をブログ経由で購入していただけるのは大変ありがたいことなのですが、せっかく購入希望があっても在庫がないってのはいわゆる「機会損失」ではないですか?>東京図書さん
なーんて思ったりもしましたが、現在では「通常4~5日以内に発送します」状態であり、それなりに安定供給はなされているっぽいです。
そんなわけで興味がある方はもう注文されていると思いますが、改めて当ブログでもご紹介。気になったところをピックアップしていきますよ。


p17.- 第1章 論文とは何なのか? 2. 論文の構成 現実の世界と研究の世界 より

論文を読む前に持っていたイメージは、(中略)筆者がいろいろと持論を述べた文章というものではなかったかと思います。

しかし、このようなイメージをもって論文を読むと、少し肩透かしをくったような感じになったのではないでしょうか。とくに本書であつかうような数値データを用いた研究論文では、論文なのに筆者が積極的に論じようとしている姿勢をあまり感じとれないと思います。筆者の論が目立つというよりも、資料が目立っていると感じると思います。これも論文という文章の特徴で、資料を中心に論を進めるということから生じるものです。

論文は、筆者が述べたいことを単に論理的に記述した文章ではありません。そのように言える論拠が常に求められます。(中略)論拠である資料をもとにまとめたものが論文ですので、論文をまとめるときの筆者の仕事は、資料を最大限に活用することになります。

まーったくその通りなのですよね。
初学者の中にはたまに、自分の自説を延々と書くのが論文だと思っている人がいたりするわけですが、そうではないのですよね。
何の根拠もなく自説を展開するだけでは、「それはあなたがそう思っているだけでしょ?」「それはあなたの主観でしょ?」と言われるだけで説得力は全くありませんし、少なくとも自分が述べたいことを他者に伝えることなんてできません。
自分の知識をひけらかしたいのか何なのかはわかりませんが、単に知識を羅列するだけでもそれは無意味です。その知識(上記引用部にあるところの「資料」)が筆者の展開する論の根拠となって初めてそれは意味を持ってくるわけですよ。
さらに引用続き。

少し抽象的な表現になりますが、資料自身に語らせることが筆者の仕事なのです。適切な資料がそろえば、筆者自身が論じなくても、それを適切な順に並べるだけで資料自体が論じてくれるのです。つまり、筆者自身の積極的な姿勢は論文の表現上から見えにくくなります。適切な資料がそろった場合であればあるほど、筆者の影は薄くなるのです。

いいですね。「資料自身に語らせることが筆者の仕事」って言葉。
これは論文である限りは臨床系の論文、事例研究などでも同じことだと思います。この本の筆者も書いていますが、面接データの場合、その面接の中で対象者(臨床場面においては患者・クライエント)が語った言葉が資料であり、それを元に論文をまとめる場合にはさらに先行研究など論文が資料になってくるわけです。
この辺の資料の扱い、そしてデータの扱いってあたり過去ログの
研究について具体的にどこまで言及するのか?(06/04/18)
「データをムダにしない」ってことから考えてみる(06/05/01)
なんかにも関連してくると思いますが、ホント、論文を書くってのは資料をどう扱っていくかにかかっていくのだと思います。それをせずにただただ自分の論を展開していくなんてのは論文じゃないですし、人に何かを伝えようとするために文ではありません(言ってみればそれはオナニーみたいなもんでしかないです)。
さらに引用。

では、論文全体を通して筆者は黒子役なのかというと、かならずしもそうではありません。いくつも論文を読んでいると、「問題」の部分や「考察」の部分では、筆者が表に出てくることが多いということに気づくと思います。(中略)

現実は現実の世界にあり、研究は研究の世界にあります。(中略)現実にある問題をそのまま研究の世界(論文)であつかうことはできません。現実問題を探求しようとする研究では、現実と研究の世界の往来がどうしても必要になるのです。その往来を担当する部分が、主に「問題」と「考察」であることを認識しておいてください。

これが臨床系の事例研究などになってくると、さらに問題は複雑になってきます。当たり前の話ですが、面接でのやりとりというのは「現実にある問題」であり、そのやりとりをそのまま提示しただけでは「研究」にはなり得ません。ですから、数量データを扱う研究よりも、「現実と研究の世界の往来」は困難になるところがあると思います。
その辺のバランスがうまくとれているのが「良い事例研究」なんじゃないかと個人的には思ったりします。そして、それは何も学派だったり臨床実践のオリエンテーションは関係ないところだとも思います。
最終的に大事なのは「どれくらい説得力があるか」だけなんじゃないかな、と。
もちろん「臨床においては生データ(もっと言ってしまえば経験)以上に説得力のあるデータはない」という意見もあるかもしれませんが、それに対しては前に書いたように「結局、あなたの言ってることは主観でしかないですよね」と言われたら元も子もないし、せっかくの豊かなデータを大事にしたまま味付けして食べやすい形にする(理解してもらいやすい形にする)のが「論文を書くという作業」なのではないでしょうか。
この辺のことは過去ログの
臨床経験長いけど業績ゼロってヤバくね?(06/08/16)

臨床経験長いけど業績ゼロって人にとっての「批判されること」(07/09/03)
辺りと関連してくるかもしれません。
・・・・・・・・・・
とにかくこの本、研究したいと思っている人、そして研究しなければならない人にとっては必読の一冊だと思います。「心理学研究法」なんて講義(実習?)の教科書にしてもいいくらいだと思います。
ただ、繰り返しになりますが、この変形B5版みたいなサイズがちょっと嫌です。個人的には。
興味のある方はどぞー、です。

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浦上 昌則

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